第4審判がとっさの判断で、町田ゴールへ向けてポジションを移動させていく方法も考えられる。審判委員会もかねてから「第4審判も試合に関わる」と指導しているが、町田対秋田のような特異な事象を個別にピックアップした作業は行っていない。
審判団が置かれていた一連の事情を受けて、前出の東城氏はこう語っている。
「今回は見極めが非常に困難な事象だと、われわれは十分に理解しています。それでも、見えないから仕方がない、絶対に判断できないとは言いたくない。与えられた環境のなかで少しでも確率を上げて的確な判定につなげていくために、例えばいよいよ判断が難しいとなったときに、あらかじめ設けておいた優先順位のなかから次のオプションに切り替えるとか、スピードを少し緩めて動体視力の低下を防いで視野を確保するなど、現時点でできることに対して最大限のベストを尽くす作業に引き続き取り組んでいきたい」
審判団は「自分自身で確認できたものだけを判断材料にする」という原理原則がある。VARによる属人性が排除された、機械による目の補助を受けない状況で、山本主審をはじめとする審判団はピッチ上における判定でリーダーシップを貫いた形となる。
しかし、結果として真実とは異なるものとなった。山本主審が2019年6月の浦和レッズ対湘南ベルマーレで、後者の選手が決めたゴールをノーゴールと判定。VARの導入を早めた「世紀の大誤審」の主審だった一件も、今回の騒動に拍車をかけた。
Jリーグの野々村芳和チェアマンは真っ先に考えられる再発防止策として、J2およびJ3へのVARの導入をあげる。しかし、同時に課題が山積しているとも付け加える。
「VARはFIFA(国際サッカー連盟)が定めるトレーニングを受けた審判員が担当しなければいけないが、現状の日本サッカー界ではVARの人材が不足している。また、改正された競技規則には『VARライト』というものが記載されている。VARの簡易版と聞いているが、実際にどのようなものなのかはまだ把握できていない。JFAの審判委員会と協力しながら、Jリーグに導入可能なのかを検討していきたい。そのなかで、すぐにできる方策となるとなかなか難しい。審判員の研修やセミナーなどをJリーグでも積極的に支援しながら、ピッチ上のレベルを上げるべくJFAと密に連絡を取っていきたい」