今年新たに発表した「FUMIDAI BAG」は、今ではあまり使われなくなった「踏み台」をモチーフにしたデザインにし、好評だ。田尻は徐にこう言った。
「踏み台の真ん中にある丸い穴ってなんで開いてるか分かりますか?」
筆者が少し考えていると、「実はクズ入れだったそうです。踏み台だけでなく、合理的なデザインですよね」と付け足した。「日本で古くから使われていたけれど、埋もれていたモノの良さに気づき、着物と同じように残していけたら」と思いを語る。
これまで女性向けの商品だけ取り扱ってきたが、時代に合わせてユニセックスで男女兼用の開襟シャツ「MICHIYUKI SHIRT」を生み出した。着物の上に着られていた道行(みちゆき)から生まれた一着。これまでサンダルで使用してきた着物帯は伝統的な和柄が多かったが、今回は現代のファッションに馴染むように生地選びの基準も、よりモダンに変えている。
靴はデザインをリニューアルし、以前から人気だったスクエアサンダル「obi square sandals」のほか鼻緒付きのサンダル「hanao sandals」、スクエアミュール「obi square mules」の3種に変更した。(5月1日時点でオンライン販売はスクエアサンダルのみ。そのほかはポップアップのみ展開。)
今後は、阪急うめだ本店(5月3〜9日)、ジェイアール名古屋髙島屋(5月24〜30日)、博多阪急(6月7〜13日)でポップアップを順次展開する。実は、名古屋髙島屋は、売上規模が大きな売り場で、靴だけでは出展が難しかった場所だ。まだ一部の「服好き」にしか知られていないブランドがより広く認知されるチャンスとなる。
日本と世界を「結ぶ」ブランドへ
次なるステップは「Relier81として海を渡る」ことだ。元々は日本と海外を「結ぶ」ために作ったブランドだ。「1年目の苦い思い出でもあり、ブランドの礎にもなっている(海外展開の)アクションを無駄にしたくないんです。リブランディングで国内販売を強化しつつ、海外でも販売の機会を狙っていきます」と胸中を明かす。
さらに田尻は自社のブランド拡大だけでなく、もう少し広く鳥の目で未来を思い描いている。最近は、学生の街でもある京都で、京都工芸繊維大学や京都芸術デザイン専門学校との産学連携の授業なども積極的に引き受けてきた。学生たちに着物を身近に感じてもらうだけでなく、キャリアの選択肢を少しでも広げてもらいたいという思いがあるからだ。
「学生たちと接していると、伝統やSDGsに関心が高い世代だと感じています。そんな若者と年の近い起業家たちがつながり、さらに職人さんなども含めて世代を越えたコミュニティを作っていくことで、伝統を生かした新たなアイディアが生まれ、次世代への発信にも貢献できたらと思っています」
京都から世界へ──。伝統産業のコミュニティ構想は田尻自身、ひとりでは成し得ないことだと言う。ただ、文化起業家が多く生まれる京都の地の利を生かし、カルチャープレナーたちが束となって発信していく考えは可能性を秘めている。