国内

2023.05.04

海外人気の「着物」をモダンに。カルチャープレナー創業5年物語

「Relier81」代表 田尻大智

伝統を活かし、全く新しいものを生み出す挑戦

着物や帯を使った、どんなアイテムがいいのか。調べていくうちに、シャツや鞄などは見つけたが、シューズは見当たらなかった。「初めて起業する時は、世の中にない商品を生み出したくて、メイドインジャパンの着物を使った靴は見つからなかった。これはひらめきだと思いましたね」と笑う。試作を請け負ってもらえる靴の製造工場やメーカーを探し始めた。
 
専門家に起業相談をしていた訳でもなく、リサーチ方法は至って単純だ。インターネットで「靴 工場 メーカー」と検索し、出てきた会社に順に電話をかけていった。50社以上電話をかけたが、試作といっても最小ロットで100足や300足以上でなければ難しかったり、メイドインジャパンと言っても途中までは中国生産だったり。起業予定の青年にそもそも全く取り合ってくれない会社も多く、心が折れそうになった。
 
そんななか、神戸市の小規模な靴の製造工場の社長だけ「面白そうだね」と言ってくれ、着物の生地を持ってプレゼンテーションをしに行った。メーカーにとっても着物でサンダルを作るのは初めて。そもそも着物地は靴にする生地ではないため伸びにくく、手作業と機械で強度を調整したり、裁断時に着物地がほつれないようにするため、試行錯誤を繰り返していった。商品開発にかかったのは1年。職人たちも「ノー」とは言わず、田尻の新しい挑戦に協力してくれた。
 
今では多い時で月100足を販売するまでに成長した。今春からは、受注拡大ができるように新たに生産体制を整えた。
 
今春リニューアルしたスクエアサンダル「obi square sandals」。ソールの素材は本革を使用

今春リニューアルしたスクエアサンダル「obi square sandals」。ソールの素材は本革を使用

海外での失敗 国内マーケットで立て直し

田尻は社会人3年目になると、量産体制も整ったため、当初の宣言通り3月末に社会福祉法人を退社し、2018年5月に創業した。ブランド名は「Relier81」。フランス語で結ぶという意味で、81は日本の国番号。「日本と世界を結ぶ」という思いを込めて、最初はファッションの発信地フランスやイタリアで売ることを考えた。
 
だが、田尻自身「勉強不足で浅はかだった」と振り返る通り、海外販路を先に開拓する試みは失敗。パリのオペラ座やミラノのドゥオモ前に着物のサンダルを広げて、街ゆく人に声をかけて写真を撮りインスタグラムに投稿(現在は削除)したが、警備員に止められた。

現地でできた知人づてで、創業した年にパリで日本文化を紹介する総合博覧会「Japan Expo」やミラノで国際見本市「HOMI MILANO」に出展する機会も得たが、現地での契約はゼロ。ようやく冷静になり、ファッションとの相性が良いインスタグラムを活用し、まずは日本のマーケットでの認知拡大を目指した。
 
海外初出展の結果は散々だったが、国内での目算は当たった。インスタグラムで最初に注目されたきっかけは、東京・幡ヶ谷にあった古着屋Caro(現在は山形県の天童市へ移転)から「こういう着物帯でサンダルを作りたい」とダイレクトメッセージがあり、ポップアップを開くことになった。

そこでアパレル業界で有名なブランドディレクターが購入し、Relier81をタグ付けしたことで一気に広がった。そこからUNITED TOKYOのデザイナーにつながり、スクエアサンダルをコラボレーションすることになり、ファッションメディアでも多く取り上げられ、より認知拡大に結びついた。
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