「世界的にも、プラクティスからパフォーマンスへという流れだ。次は、質が求められるフェーズになる」と話すのは、新生企業投資・インパクト投資チームで、はたらくFUNDのジェネラルパートナーの高塚清佳と黄春梅のふたりだ。インパクト志向の企業として上場する「インパクトIPO」にあたり上場後もインパクト企業として成長するためのサステナブル経営やインパクトの測定およびそのマネジメント+(IMM)を推進していくことが求められる。「IMM前提のビジネスモデルをはじめ、投資先のなかにはアーリーステージからロジックモデルを開示するなどスタートアップ側にも進化の兆しが見られる」(高塚・黄)。日本でも23年にはインパクトIPOの事例が見られるとの声もある。22年には、キャピタルメディカ・ベンチャーズによる、投資先企業の社会的インパクトの最大化を図るための「レスポンシブルイグジット」が実行されるなど、事例が伴い始めているのが国内の現状だ。同社社長の青木武士は「『もうかる』という実績が大切だ。23年には可視化される成果も多いだろう。経済的リターンに向き合うことで結果的に社会的リターンを追求するということが重要だ」と話す。
世界におけるインパクト投資市場は1兆1640億ドル(120兆円超)にのぼる。グローバルでは金銭的リターンが問題視されている「ESG投資への批判」もあり、インパクト投資への影響も懸念される。こうした上場株に関するネガティブな事象もある一方で、気候変動問題全体に対処するスタートアップの総称「クライメートテック」を対象としたドライパウダー(投資余力)は市場空前の規模だ。北欧VCのNordicNinja代表パートナーの宗原智策は「注目しているクライメート・フィンテック領域をはじめ、新分野や事例が生まれ、クライメートテック領域の盛り上がりは加速するだろう」と話す。
また、ケニアのインパクトスタートアップの財務・戦略責任者を経て、スタンフォード大学経営大学院に在籍する熊平智伸は「(インパクト投資の加速は)欧米や日本といった先進国において貧困をはじめとした複雑な社会課題が顕在化していることの影響が大きい。政府による公共政策だけでは対処できないという需要と、『社会的なインパクト』のビジネス領域における再解釈が起きたことで資金の供給理由が生まれたことの双方の動きがある」と話す。