インパクトスタートアップ・エコシステム元年へ
「(政府の)『スタートアップ育成5ヵ年計画』のなかで、『社会的起業家(インパクトスタートアップ)』という文言が特出しされ、はじめて明文化されたのは画期的なことだ」そう話すのは、経済産業省経済産業政策局新規事業創造推進室長の石井芳明だ。岸田文雄政権は22年11月、5年後の27年度にスタートアップへの投資額を現在の10倍超となる10兆円規模に拡大するエコシステム形成を目標にした「スタートアップ育成5カ年計画」を策定した。ユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)100社の創出などを目指し、3本の柱と網羅的な支援策が示されている。22年度の第2次補正予算にも1兆円規模の起業支援策が盛り込まれるなど、スタートアップ育成が国の主要政策となった。
5カ年計画のなかには、「社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進」に取り組むことも記載されている。国内大学における教育プログラム開発、ネットワークづくりの支援、育成の拠点づくりの促進、海外派遣プログラムの推進をはじめ、民間で公的な役割を担う新法人形態の検討などについて言及されている。さらには、公共調達における優遇措置、国から自治体へ向けた推奨企業リストへの掲載、地方自治体とのマッチングなどの検討も含まれている。
「インパクトスタートアップが社会課題を成長のエンジンにする『新しい資本主義』を体現する存在であり、育成の重要性を有識者会議でも述べてきた。協会として提言したことの多くが網羅されているのは、よかった」と話すのは同協会の米良だ。同協会はインパクトスタートアップを1.創業背景や企業の存在意義に「社会へポジティブなインパクト(影響)を与えたい」という意志が強く組み込まれている、2.目標とするパフォーマンスに「インパクト」に関する指標がある、3.インパクト創出に関する活動を行っている、と定義する。世界的に見ると、インパクト・ユニコーンは179社にのぼり、そのうち40%が21年以降にユニコーンになるなど急成長分野だ。
そして米良は次のように続ける。「スタートアップとの違いとして、『社会コストを下げる』ことも大きい。政策提言のなかでも、社会コストへの関心の高さを感じた。協会を通して資金調達やインパクトの可視化に関する知識を共有し、それぞれのスタートアップが社会課題を解決しながら成長し、社会コストを下げ、持続可能な経済成長を実現する組織となるのが理想だ」。
同協会は、インパクトスタートアップの強みのひとつに、社会課題の複雑化とともに市場が拡大するという「成長の余地の大きさ」をあげる。同協会の水野は「インパクトスタートアップの鍵となるのは『公共調達』だと言ってきた。国や自治体といった官からすると『社会コスト』を下げ、スタートアップ側は安定した売り上げや利益につながり、海外投資家を含めた投資家から投資を受けやすい環境にもなる」と話す。