AI

2023.05.11

原点はインド。ロボット開発者の「人を惚れさす」ためのイノベーション

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長 古田 貴之氏(右)に話を聞いた。

人を“動かす”ためのイノベーション

——お話を聞いていて、プロダクトが最終的に社会実装される時のイメージの解像度をすごく大切にされていると感じました。プロジェクトをスタートされる時に肝とされている部分はどんなところでしょうか?

スケッチの段階でレゾリューションをひたすら細かく切っていくことはこだわってますね。強度やキャパシティなど、ファンタジーにならないように物理計算してジャッジしています。

基本的に、まず最初は数時間かけて一人でプロダクトのストーリーを詰めて考え、それをデザイナーと協業しながら可視化して一気にプロジェクトを進めるスタイルが多いですね。デザインも、上から被せるような厚化粧のデザインではなく骨組みから意味のあるものになるよう、平面的な絵ではなく立体的にフォルムを詰めていきます。

——プロジェクトが進んでいく中でメンバーが加わって、ピボットが起こったりということもありますか?

ないですね。なぜかというと、うちの研究所はひとつのロボットに対して5人1チームで制作して、途中からこれが変わることは基本的にありません。このチームビルドを重要視していて、この研究所は今技術者が15人ぐらいいるのですが、世界的に見ても天才といって差し支えない人たちばかりが揃っています。

SLAM (Simultaneous Localization and Mapping:自己位置推定と環境地図作成の同時実行)の精度を競う世界大会で2連覇してるようなチームです。それぞれの得意領域も把握してるので、頭の中で描いたことは、ほぼほぼ再現できます。

——ひとつのプロトタイプにおいては一気通貫で完遂できる技術力がチーム内にあるんですね。「じゃあ今度はこんなロボットをつくってみようか」という次のアクションに向けた発想はどのように生まれるものなのでしょうか?

例えば、私たちがつくった「CanguRo(カングーロ)」という搭乗型ロボットがありますが、これは乗り物をつくろうと思ったわけではありません。どんなに機能を持たせても、それがA地点からB地点までの移動のための単なる手段なのであれば、それはイノベーションとはいえない。

人と馬の関係をコンセプトに開発された主人に寄り添うパートナーロボット「CanguRo(カングーロ)」。ユーザーが乗って移動する「ライドモード」と、ユーザーに追従してショッピング等をサポートする「ロイドモード」がある。また、遠方にいても、スマートフォンやタブレットで呼び出すことが可能。 

——カングーロはトランスフォームして乗り物となる一方で、生きた相棒のように主人の後ろをついてきたり、離れた場所から呼び出したりすることもできる。今までのロボットには感じたことのない距離感でした。

このロボットのコンセプトは、高齢化社会におけるアクティブシニアです。これからどんどんと高齢者が増えていくのは避けようがありませんが、そんな社会を動かしていくためには、高齢者に積極的に外に出てもらい、元気に動き回って欲しい。

免許を返納しても、自転車に乗れなくなっても、「欲しい」「乗ってみたい」と思える存在があり、それがパートナーのようにサポートしてくれれば出かけるきっかけになるはずです。


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文=出村光世

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