AI

2023.05.11

原点はインド。ロボット開発者の「人を惚れさす」ためのイノベーション

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長 古田 貴之氏(右)に話を聞いた。

——この教えを子ども時代に受けるというのはかなり早熟ですね。でもクリエイティブの本質に通ずる部分もある気もします。

加えて、「君が何者かは、死ぬ瞬間にわかるんだ」とも言われました。子ども心に、自分は何者になるのか、と思いを巡らせて。自分の身近なすごい人ってどんな人か、と考えた時に「鉄腕アトムの博士って、すげぇよな」と思って。それでロボット博士を目指そうと思いました。

でもその後、日本に帰ってきてからはカルチャーショックでしたね。他人と違うことが美しく素晴らしいと学んできたのに、「みんな同じでいなさい」と言われる世界でしたから。

サイエンス“ノン”フィクションな研究者

——古田さんはご自身をどのようなタイプの研究者だと客観視されていますか?

基本的に僕は文系の人間なんです。シュルレアリスム文学やジャン・コクトーが好きで、高校の頃は東京都の小説コンクールで表彰されたりもしました。高校の頃「理系に進む」って言ったら先生に呼び出されて「何言ってんの!?」って驚かれましたよ。

最近で言うと、2022年に公開した二宮和也さん主演の「TANG タング」という映画でロボット監修に携わったり、過去にはアンドロイドが登場するドラマの脚本のお手伝いをしたり。頭の中にある物語を、文章の代わりに科学技術でしたためる、そんなイメージの研究者ですね。

——表現をする際に、想像だけではなくロジカルに現実世界に落とし込んでいくような?

「サイエンスフィクションをサイエンス“ノン”フィクションにしたい人」っていうとわかりやすいかもしれない。

——なるほど、しっくりきました。

傾斜や障害物を乗り越えることができ、原子力発電所などの過酷な環境下での調査や作業を可能にするロボット「櫻壱號(サクライチゴウ)」

未来をつくるということは、人の心を揺さぶることだと僕は信じています。想像がフィクションの世界だけに留まっても、技術者が技術の世界だけで留まっても、この心を揺さぶるという領域までは到達しません。「リアル」であることが重要です。

僕はよく、ロボットづくりを恋愛に例えるんですよ。

例えば合コンだと「あの人いいな、素敵だな」とまず見た目の印象から入りますよね。それがロボティクスだと「デザイン」であり、最初の掴みの部分。その後、話したりして「声がいいな」「雰囲気がいいな」と、他の五感をだんだん刺激しはじめる。そこから先は、頭で理解していくフェーズに入る。「この人はどんなバックグラウンドを持っているのかな」「この人はいつも何を考えてるのかな」って。

ロボティクスも一緒で、こんな見た目・こんな技術という体験の後に、それがどんなサービス生み出せるか、どんなネットワークにつなげることができるかを示すのが大切です。恋愛でも、「この人と一緒だと将来こんな楽しい未来がありそう!」と思ってもらえればパートナーになりますよね。

関節ホイール・モジュールを装備した移動ロボット「Halluc IIχ(ハルクツー・カイ)」前後、真横、回転移動ができるだけでなく、インセクト(昆虫)モードでは凸凹道を歩行することも可能になる。写真はアニマル(哺乳類)モード

デザイナーはデザインだけ、技術者は技術だけ、プランナーはサービスだけになりがちだけど、僕にとってはすべてがひとつ。それを頭の中で高速で往復させることでものづくりをしている。一部分だけ切り出して見るだけではいけない。

今の日本の製造業も「安さ」と言う側面だけで人の心を動かそうとしたから凋落を招いてしまった。そうではなく、人の心に刺さるもの、惚れさせるものこそが本当のイノベーションになりえると思っています。

 利用シーンに応じて4種類の形態にトランスフォームするモビリティ「ILY-A」突然飛び出してくる人や障害物などを動・静止物体に関わらず認識し、自動で車体の速度を減速して制動制御する
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文=出村光世

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