AI

2023.05.11

原点はインド。ロボット開発者の「人を惚れさす」ためのイノベーション

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長 古田 貴之氏(右)に話を聞いた。

——つまり、乗り物をつくったというよりも、行動のデザインをされている。

どんなに高機能なスマホがあってもコミュニケーションする相手がいないと寂しいですよね。乗り物も一緒で、乗ってみたい・出掛けてみたいと心に訴えかける、惚れさせるような魅力がないとダメ。

カングーロは馬をモチーフにしていますが、かつては馬も乗り物ではなく、人間のパートナーとして存在していました。AI時代の現代にふさわしい、人と乗り物のまったく新しい関係を築くことを目的としてつくりました。


千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター fuRoで研究開発されたロボットの数々。

技術は生モノ、社会にインストールする宿命

——僕、実はペットロボットというものに心が動かされることがあまりなくて。これってプログラムされたものなんだよな…と思うと冷めるというか。一方で、カングーロが後ろをついてきてくれた時には愛着が湧く感覚があって、この違いはいったいなんなんだろうか?と考えた時に、ペットロボットってペットに寄せにいき過ぎなのかなと。
 
わざとらしく真似しようとすればするほど遠ざかる魅力というものはありますよね。有名人を模した超リアルなアインドロイドとかありますけど、バックグラウンドに人間相当の感情がないから機体が動いているようにしか見えない。

——生物に近づけるというより、生活に近いところで寄り添ってくれることを重視してデザインを考えることが重要なポイントのようですね。

fuRoでも、いかに衣食住にロボット技術を延長して、人と世の中を動かしまくるかということばかり考えています。たまたま今はモビリティにフォーカスしてますが、あらゆる産業でどう技術を社会にインストールするかを練っています。

技術って生モノで、どんなハイテクでも10年経ったらローテクです。僕ら研究者は、最新技術と呼ばれるものを扱う以上、世の中の皆さんの手元に届けなきゃいけない義務がある。でも企業とプロトタイプをつくっても、実際に製品化されるのは5年後だったり。そういう時はほんとに悔しいですよ。

——事業開発のジレンマですよね。むしろ公開しながらつくっていってもいいんじゃないかとも思います。

絵画は100年経っても名画なんですけどね。僕ら技術者の宿命、雪まつりの雪像みたいに儚い。それでも技術者は、技術を世の中にインストールして、文化を前に進めていかないと。

——今日お話を聞いて、きっと古田さんは死ぬまで何かをつくり続けていくのだろうなと思いました。

「死ぬ時に何者かが決まる」と言われちゃってますからね。やっぱりいかに仕事を残すかが価値だと、僕は思い込んでますよ。
 

古田 貴之◎fuRo所長。工学博士 1968年、東京都生まれ。 1996年、青山学院大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程中途退学後、同大学理工学部機械工学科助手。2000年、博士(工学)取得。同年、(独)科学技術振興機構のロボット開発グループリーダーとしてヒューマノイドロボットの開発に従事。2003年6月より千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長、2014年より学校法人千葉工業大学常任理事を兼務。

文=出村光世

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