「ビジョンがすべてのベースになります。意思決定で迷ったらここに戻る。校則も『人物多様性』に沿って考える。そうしたら、『髪染め禁止』という校則に疑問を感じるようになります」
ビジョンを10のアクションプランに落とし込み、スクールポリシーを設定する。校長就任時に、ビジョンを実践するための仕組みも同時につくり上げた。ビジョンの理解や浸透のために、教職員が集まって対話する「中つ火を囲む会」を月1回実施。この会では、外部の有識者を招き先進的な教育にふれる機会もつくる。一方、例の職員会議は廃止した。連絡事項はGoogle for Educationなどで共有し、業務の効率化をはかっている。
「このあたりは企業経営と一緒。校長の仕事はビジョンを示し続け、それを実現するための環境や組織をつくることだと思います」
就任時から考える「イグジット戦略」
近年はビジョンに共感した生徒が集まるようになった。地方の私立高校は滑り止めとして受験されることが多いが、いまの札幌新陽高校は第一志望に選ばれる高校になっている。「正直、うちは誰にでも合う高校ではない。でも、ほかの学校では合わないと感じる子が『新陽なら高校に通いたい』と志望してくれる学校になってきました」
そして22年度からは「生徒の数だけ学びがある」をコンセプトに、単位制を導入。2年次以降、学びたい授業を自ら選択できる。赤司は21年度までのコース制を「定食」、昔の学校教育を「幕の内弁当」に例えながら、次のように比較する。
「単位制はビュッフェのように、自分の好きなことを好きなように学ぶ時間割をつくれます。もちろん『栄養』が偏らないようにカリキュラムは設定してありますが、より自分の得意なことを伸ばしてほしい」
定期テストは数年前から廃止している。その代わり、単元ごとのミニテストやレポート提出、グループでのプレゼンテーションなどアウトプットの機会は多い。
「一夜漬けできない分、普段から主体性をもって取り組まないと結果が出ない。ある意味定期テストよりも大変です」
赤司が校長就任時から考えていること。それは、「どうやって校長をイグジットするか」だ。
「私が校長でなければまわらない学校をつくっても意味がありません。安定性と持続可能性のために、メンバーが入れ替わっても、その学校としてのアイデンティティとカルチャーが残る仕組みをつくらないと」
そのために取り組んでいるのが、米経営学者のピーター・センゲが提唱する、あらゆるメンバーの意欲と学習能力を生かすすべを見いだす組織、「学習する組織」に倣った「学習する学校」をつくることだ。この組織づくりがうまくいけば、ほかの学校にも横展開できると考えている。
「札幌新陽高校の取り組みが、日本の教育に小さな一石を投じることになればいい。『ファーストペンギンでありたい』と自分たちをモチベートして、新しい高校のあり方を模索しています」
赤司展子◎早稲田大学商学部卒業。三井物産、アルフレックスジャパン、UBS証券を経て2007年PwC Japan入社。18年ウィーシュタインズを設立し「学びの多様化」に取り組む。21年4月より札幌新陽高校校長。そのほか、NPO法人インビジブル理事なども務める「複業する校長」。