教育

2023.04.28

「複業する校長」が模索する高校のあり方 人物多様性と学びのビュッフェとは?

札幌新陽高校校長 赤司展子

札幌新陽高校には「地方私学のロールモデル」として全国から熱い視線が注がれている。教育変革の動きを加速させているのが校長兼社長兼NPO理事などを務める赤司展子だ。

札幌市南区にある札幌新陽高校は2015年まで、少子化に伴う入学者減に悩む普通の私立高校だった。生徒数が定員の半分近くまで落ち込み、経営の危機に瀕したタイミングで、創業者の孫である荒井優が校長に就任。ソフトバンク社長室から来た荒井は、「本気で挑戦する人の母校」というスローガンを掲げ、同高校を改革していった。

オープンスクールの積極的な開催、新しい部活の創設、探究コースの開設、ICTの導入などの取り組みの結果、入学希望者が増加し、学校には活気が戻ってきた。

そして21年、荒井から校長のバトンを受け取ったのが赤司展子だ。荒井と赤司は、東日本大震災の教育復興プロジェクトを共に推進した間柄だった。赤司はPwC JAPANで事業再生などのプロジェクトに携わった後、14年から福島県双葉郡教育復興ビジョン推進協議会に出向。2年後PwCに戻り、新規事業を開発するチームに所属した。教育での事業開発を模索し、海外の最先端の学校を視察するなど、ビジネス側から教育を眺めるなかで、赤司は社会が求める人材育成と実際に行われている学校教育のギャップに戸惑った。

「数カ月前まで一緒にいた福島の公立学校に通う子たちが、『個性を発揮してイノベーションを起こす』ことができるだろうか、と思ったんです。だって、学校ではまだまだ生徒を型にはめるような一律一斉の教育が行われているのに」

赤司はビジネスの世界にいた自分だからこそできることがあるはず、と18年にPwCを退職。「学びの多様化」をライフミッションに、教育関連の会社ウィーシュタインズを設立した。赤司が18年に視察したフィンランドの学校では、生徒が思い思いの姿勢で授業に参加していた。なかには、先生の足元にくっついている子も。でも、全員集中して話を聞いていた。

「それでいいと思うんです。目的は『学ぶこと』なんですから。(ハーバード教育大学院の)ハワード・ガードナーが『多重知能理論』で、知能は少なくとも8つあるという考え方を提唱しています。学校教育ではそのなかの『論理・数学的知能』『言語・語学知能』を伸ばすことが主になり、『視覚・空間的知能』など他の知能が高くても気づくことができない。本来は一人ひとり適した学び方も違うはず」

荒井に起業を伝えると、「うちの学校を見に来てよ」と返ってきた。そこから、札幌新陽高校の働き方改革を事業アドバイザーとして手伝うようになった。そして3年後、校長に打診された。
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文=崎谷実穂 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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