平均ではなく、自社らしい人的資本経営を
人的資本経営においては、カインズでいう「DIY思想」のような素地が必要だと堀尾氏は説明する。ミッション・ビジョン・バリューを作って組織に浸透させ、企業文化をつくり上げることは、一朝一夕でできるものではない。人的資本経営に取り組むことで、今まで企業として何を積み上げ、やり続けてきたのかが明らかになるのだ。「いわゆるお化粧の部分に一生懸命になってしまって、本来の目的を見失っている経営者や人事責任者の方も多いです。今までやり続けてきたのであれば、それを極める。できていないのであれば、それを認め、社員のために改善していく。そのあたりを見誤らず愚直にできるかどうかが、人的資本経営を成功に導く分岐点だと思います」(堀尾氏)
西田氏もまた、人的資本経営が戦後、高度成長期からバブル崩壊頃まで金融機関向けに行われていた保護政策「護送船団方式」のような、企業にとって一律で平均点を取るための施策になることを危惧しているという。
「企業として国からの命と受け止めるのか、それとも自分ごととして受け止めて自分たちなりの特徴を出そうと自律的に取り組むのか。これによって企業にものすごく大きな格差が生まれてくると感じています。単に国から求められているガイダンスに基づいて義務を果たしましたよ、ということでは何にもならない。
人事には真面目な方が多いですから、求められた項目について全て平均点以上を取ろうとするわけです。一方で、企業によってやはり強み・弱みがあるので、私はでこぼこでもいいんじゃないかなと思っています。企業としてステークホルダーや株主に対し、自分たちがどんなHRシステムや人材ポートフォリオを築き、何を目指しているのか。そこをわかりやすく説明できることが、すごく重要だと感じます」(西田氏)
人的資本経営、何から始めるべきか
人的資本経営には、複合的な課題や十人十色のゴールがある。だからこそ、どこから着手すべきか悩む担当者も多いはずだ。谷本は「何から始めるのが、一番近道になりそうか」質問を投げかけた。それに対して西田氏は、「個の時代、自己探索や自らが何者なのかを内省することが大切だと言われていますが、企業も同じ。企業も自律するために、自社の存在意義を内省することが最初だと思います。それをどう表現して、社員に伝えていくか、その根元となる部分をしっかり経営側が設定することが、必要だと思います」と回答。
実は西田氏が店舗を巡回し、最初に会うのがパート・アルバイトの社員だ。店舗のパフォーマンスを決める彼らが今どんなことを考え、悩んでいるのか、執行役員そして人事のトップとして直接耳を傾けることは、自社を内省する有意義な方法だと考えているという。
堀尾氏も「誰のための人的資本経営なのかということは、いつ、いかなるときもぶれないようにしなければいけない」とコメント。さらに「対象は間違いなく働いている方であり、それにどれだけ寄り添えるかということが、今、問われている。現場の声を拾い続け、社員の考えや根底にある概念を学び続ける姿勢は、遠回りのように見えて、人的資本経営実現への圧倒的な近道だと思う」と加えた。