Forbes JAPANが定期的に発信する「インクルーシブ・キャピタリズム」シリーズ。
環境、社会、科学、芸術。短期的な市場価値に翻弄されることなく、真に人類の未来に私するための社会的装置とは。
今回は、半世紀前孤高の経済学者、宇沢弘文が唱えた「社会的共通資本」をマイルストーンに、現代を生きる実践者たちと持続可能性を考える。
11月に行われた株主総会、株主ミーティングで、良品計画代表取締役社長の堂前宣夫は、取締役や執行役員らとともに、会社の理念や進む方向について話し、長時間にわたり丁寧に質疑に応えていた。2022年8月期の決算は増収減益。事業展開する中国大陸のゼロコロナ対策の影響も長引き、予断を許さない状況だ。堂前はその翌日、少し疲れは残るがややほっとした表情で、取材に応じてくれた。
「会社は“法人”というかたちを取るが、本来は何か外界に対してドンと物理的に存在する“箱”のようなものではない。会社とは、そもそも何かの取り組み、プロジェクトであって、よいプロジェクトには賛同する人やお金が集まる。そしてよいことには価値があるので経済的にも収益性が成り立って継続していく。そういうものではないかと思うのです」
堂前は19年に良品計画に専務取締役兼執行役員・営業本部長として入社、21年9月に代表取締役社長に就任した。就任にあたり発表した中期経営計画では、「第二創業」と位置づけ、30年に向けて「日常生活の基本を担う」「地域への土着化」の実現を目標に掲げている。
「会社」が社会のインフラに
堂前は1969年、山口県生まれ。東京大学大学院工学系研究科を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。98年にはファーストリテイリングに入社、取締役となり同郷の柳井正の右腕として海外事業などを率いた。メディアに出ているその筋金入りの企業人経歴のイメージからは程遠い穏やかな口調で堂前は語る。無印良品は1980年代、旧セゾングループ総帥の堤清二による消費社会へのアンチテーゼ、という思想から生まれた。
「ただ、本当に日本が貧しかったころから、少し豊かになり、どんどん物が買えて、消費もできるようになって幸せになってきた40年前の状況といまは違う。いまは停滞がずっと続いてきて、生活している人も発想も変わっているなかで、『本質的にいい生活、いい社会ってなんだろう』と、もう一度立ち止まって考えよう、ということなんです」
それでは、堂前が考える良品計画の現代社会へのアンチテーゼとは何か──それが冒頭に紹介した言葉だ。足元の「会社」の概念にもかかわる、行き過ぎた金融資本主義、収益のための企業経営、消耗戦である企業間競争、搾取を生む産業構造。そしてそれによって生まれる環境破壊と格差は、100年後、私たちが安心して暮らせているのか、という人間生活の根本を揺るがすまでに進行している。
「“会社とは公器である”と言われますが、そもそも“器”という箱ですらなく、『プロジェクト』や『取り組み』や『社会活動』です。会社が、宇沢弘文さんの言う社会的共通資本の装置として、社会のシステムのインフラとなる、そういう発想です」