経営・戦略

2023.04.14 08:20

第二創業のMUJIが目指す「21世紀版アンチテーゼ」とは何か

良品計画は現在、国内532店舗、海外は604店舗を展開(22年8月末)、21年から国内においては、売り上げ20億円の食品スーパー横などの生活圏立地を中心に出店を行い、24年以降は年間100店ほど出店していく計画を進めている。衣料品や食料品にとどまらず、生活の基礎を支える商品やサービスを「ちょうどいい品質とちょうどいい価格で誰でも手に入れることができる」「継続性がある」、それがノーブランドである無印が守らなければならないものだ、と堂前は語る。

21年9月には全国10カ所の地域事業部を新設し、地域の住民や行政との交流・連携から、地域のニーズや特性に合ったサービスの展開を目指し、さまざまなプロジェクトが始動している。
無印良品では地元生産者と協力したオリジナル商品の開発や地域の生鮮品の販売、病気の予防や薬の販売までを一貫して提供する「まちの保健室」などさまざまなプロジェクトが始動。写真の「無印良品イオンモール堺北花田」では地域の農産物や鮮魚を扱う。店内には地元で親しまれる食材をつかった総菜等が食べられるフードコートも設置。

無印良品では地元生産者と協力したオリジナル商品の開発や地域の生鮮品の販売、病気の予防や薬の販売までを一貫して提供する「まちの保健室」などさまざまなプロジェクトが始動。写真の「無印良品イオンモール堺北花田」では地域の農産物や鮮魚を扱う。店内には地元で親しまれる食材をつかった総菜等が食べられるフードコートも設置。


しかし堂前に聞くと「“土着化”はまだまだかたちになっていない」と手厳しい。「“地域の産業づくりにどう貢献しますか?”がいまの地域事業の責任者の課題。都会や地方、地域によって課題はさまざまだが、どんなに住み心地がよくインフラが整っていても、結局産業がないと地域は続いていかない。自分だけで考えていても始まらないので地域の人や行政、他社と一緒に考えていく、そういうことをいろいろなところで進めている。

国内外にある約1000店舗のネットワークは販売や生産のルートとしても使える。『無印良品を、地域をよくするために、地域で産業を興すために使う』。そのような意志をもって行動できる店長がどんどん増えてほしい」。

目下の課題は、社員をチェーンストアのトップダウンの意思決定のもとで動くマインドから脱却させ、自発的、自律的に目の前の課題を解決していく社会活動家のようなマインドの醸成だという。挑戦する社員に対する株式給付信託など、新しい仕組みにも取り組む。

堂前が目指すのは“囚人のジレンマ”の解消だ。「隣の人同士が信用できないと、全体最適にならないが、お互いが情報共有をして善意を出し合えば全体最適ができるのではないか。

食べる、健康になる、コミュニティをつくる、といった生活の基本に関しては、企業からも、それ以外からも善意が集まり、切磋琢磨しながら、適切に利益を出し、金融資本家からも、生活者からも、行政からもガバナンスが利く。きちんとしたマインドをもった人たちが組めば、そういう社会システムができると考えている」

社会構造を“囚人のジレンマ”から解き放つ──。良品計画の21世紀版のアンチテーゼは、まだ始まったばかりだ。


堂前宣夫◎良品計画代表取締役社長。1969年、山口県出身。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て98年ファーストリテイリングに入社、同年同社取締役。フランス、アメリカ子会社の代表を務め、海外事業をけん引した。19年良品計画に上席執行役員営業本部長として入社、21年9月より現職。

文=岩坪文子 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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