追悼・坂本龍一。NHKを辞めた堀潤に託した「大切な言葉」

国内外の多くの人に慕われてきた坂本龍一さん(Getty Images)

クリスマスのプレゼントだったと思います。指紋がつかないようにケースからCDを丁寧に取り出し、デッキに入れて再生しました。一曲目は「CALLING FROM TOKYO」。低音が響き渡るリズムに聴いたことがない旋律があちらこちらから流れ始めた。それを聴いていた父親が「民族音楽だね」と蘊蓄を話し始めました。父の兄、私の叔父は地理学者でアフリカに調査に行く度に現地の不思議な木彫りの仮面や楽器を度々お土産に持って帰ってくれていました。「アフリカの打楽器だね」「これは沖縄の民謡」「クラッシックも入ってるな」と話題が尽きることはありませんでした。ジャンルや国籍を超えた楽曲がその後も続きました。

「一体、世界には僕の知らないどんな人たちが生きているというんだろう」と興奮しました。小学生の私の心の中に「知らない世界」への憧憬と確信を抱かせた体験。世界の分断の現場を訪ね歩き発信を続けてきた今の私がいるのは、このアルバムとの出会いがなかったら有り得なかったとさえ思います。

この時のエピソードを坂本さんに感謝と共に伝えたことがあります。2014年3月9日、初めて私的に対面した時に。思いが強すぎて早口だったし、言葉が詰まってどうにも話が続けられなくなった様子を心配そうな表情でうなづきながら聞いてくださった坂本さんは最後に「これからもよろしくね」と笑顔で別れ際にハグをしてくれましたね。

坂本さんが遺した「アウターナショナル」という思い

後に雑誌「Rollong Stone」の若林恵さんによるインタビューで、坂本さんはこのアルバムで「インターナショナルではなくアウターナショナル」を掲げたと語り、「内側にいる人たちが結びつくのではなく、ナショナルの外に出ないとダメなんだ」と真意を説明していました。

坂本さんが小学生の私にインストールしたのは、これだったのかと納得がいきました。 坂本さんとの対話の中で、印象に残っている言葉があります。

「古来から一番虐げられている者が、権力者を崇めてきました。人間の本質に関わる部分だと思います」

私は、まだ諦めないでいようと思います。アウターナショナル。まだまだ多くの世界の価値観を伝え続け、人々に知らせることで成し遂げられる平和がきっとあるんだと思っています。なぜなら私の中にも知らないことが多すぎる。伝えられていない空白がたくさんある。それを埋めていきたい。

したたかに、しなやかに。

本当に大切なものを託してくれた坂本さん、ありがとうございました。

文=堀潤 編集=督あかり

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