マーケティング

2023.04.05 08:45

マーケティングに禅を。3つの「手放す」で得る、ビジネスの本質

写真家のユージン・スミスやアンリ・カルティエ=ブレッソンの作品からは、緊張感が伝わってくる。一方、撮り直しのきく現代の写真からは、芸術性は伝わってくるものの、緊張は感じられない。

コンテンツマーケティングのカンファレンス「コンテンツマーケティングワールド」において、ベストセラー作家のアンドリュー・デイビスは「コンテンツに必要なのは緊張感」と語った。いわゆるSEOコンテンツ(検索エンジン最適化が施されたコンテンツ)からは緊張感が伝わってこない。一方、書き手の内なる熱い思いをぶつけた原稿は、緊張感があり、人々を魅了する。

「なんだか味気ないコンテンツが増えた」。こう感じている方も多いだろう。その壁を打ち破るのは、完璧な企画ではなく、偶発的な緊張感である。便利さを取り入れることの代償は、あまりにも大きい。

三、他者の評価を手放す

ポルトガル第二の都市・ポルトにおいて、筆者は商業施設からホテルまでタクシーを利用しようとした。施設周辺にタクシーが見当たらなかったので、スマホのライドシェアサービスアプリを利用。マッチング成立から10分ほどして、セダンタイプの乗用車が迎えに来てくれた。運転手は、40代とおぼしき短髪の男性だった。

「日本人?」
「そうだよ」
「フフフ」

不敵な笑みを浮かべた男性が、慣れた手つきでスマホを操作すると、ほどなくして車内のスピーカーから大音量で日本の女性アイドルグループの楽曲が流れてきた。まさかポルトガルで聴くことになるとは思わなかったので、「このグループが好きなの?」と尋ねると、そうではないと答える。続いて日本の歌謡曲が流れてきたタイミングで気づいた。音楽ストリーミングサービスで、邦楽のプレイリストを流していたのだ。

乗車から10分ほど経ち、あと数分でホテルに到着するという頃。音楽が止まったかと思ったら、どういうわけか突然スピーカーから「満足いただけたでしょうか。もし満足いただけたのならば、レビューで星を5つ付けてください。チップもたくさんくださいね」と女性の音声が流れてきた。

しかも日本語である。完全に意表を突かれた。男性はルームミラー越しにニコニコ視線を送ってくる。久しぶりの日本語の楽曲に満足したのは事実だし、商魂のたくましさに感銘を受けたこともある。言われるがままに5つ星を付け、チップも弾んだ。
ポルトガル・ポルトの街角

ポルトガル・ポルトの街角


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文・写真=田中森士

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