コンテンツマーケティングのカンファレンス「コンテンツマーケティングワールド」において、ベストセラー作家のアンドリュー・デイビスは「コンテンツに必要なのは緊張感」と語った。いわゆるSEOコンテンツ(検索エンジン最適化が施されたコンテンツ)からは緊張感が伝わってこない。一方、書き手の内なる熱い思いをぶつけた原稿は、緊張感があり、人々を魅了する。
「なんだか味気ないコンテンツが増えた」。こう感じている方も多いだろう。その壁を打ち破るのは、完璧な企画ではなく、偶発的な緊張感である。便利さを取り入れることの代償は、あまりにも大きい。
三、他者の評価を手放す
ポルトガル第二の都市・ポルトにおいて、筆者は商業施設からホテルまでタクシーを利用しようとした。施設周辺にタクシーが見当たらなかったので、スマホのライドシェアサービスアプリを利用。マッチング成立から10分ほどして、セダンタイプの乗用車が迎えに来てくれた。運転手は、40代とおぼしき短髪の男性だった。「日本人?」
「そうだよ」
「フフフ」
不敵な笑みを浮かべた男性が、慣れた手つきでスマホを操作すると、ほどなくして車内のスピーカーから大音量で日本の女性アイドルグループの楽曲が流れてきた。まさかポルトガルで聴くことになるとは思わなかったので、「このグループが好きなの?」と尋ねると、そうではないと答える。続いて日本の歌謡曲が流れてきたタイミングで気づいた。音楽ストリーミングサービスで、邦楽のプレイリストを流していたのだ。
乗車から10分ほど経ち、あと数分でホテルに到着するという頃。音楽が止まったかと思ったら、どういうわけか突然スピーカーから「満足いただけたでしょうか。もし満足いただけたのならば、レビューで星を5つ付けてください。チップもたくさんくださいね」と女性の音声が流れてきた。
しかも日本語である。完全に意表を突かれた。男性はルームミラー越しにニコニコ視線を送ってくる。久しぶりの日本語の楽曲に満足したのは事実だし、商魂のたくましさに感銘を受けたこともある。言われるがままに5つ星を付け、チップも弾んだ。