荻野:そうですね。それには小売とか卸しといったサプライチェーンの仕組を変えていく必要があります。誰が価格を決めるのかなどは、生産者の責任というより社会の仕組をつくる国や事業体の責任だと思うので。
中道:僕の会社で「AroundT」という海外向け緑茶ブランドを立ち上げた時に、日本のお茶農家に話を聞いたんです。そしたらお金が回らないから子どもや孫には継がせられない、と。そういうところを国が守らなければいけないと思うんですけど、難しいのでしょうか。
荻野:個人的な感覚ですが、産業を守ろうとして補助金などで助けると育たないんですよね。でも助けないとその産業がなくなってしまう。助けすぎないように助けるのはすごく難しい。だからパラダイムシフトが起こるようなイノベーションが必要なのかなと。
中道:世界中の誰もが食べなければ生きていけないわけだから、農業は絶対に必要なもの。しかも日本の農産物はフルーツにしても野菜にしても、世界的に見ても素晴らしいものなのに、なんかもったいないんですよね。
荻野:日本の農産物のクオリティは本当に高いですからね。おっしゃるとおり日本だけに置いておくのはもったいないけど、日本の中でもそういう価値をもっと理解して値段を上げてほしいです。
中道:日本の「食」がどんどん下向きになっている。やる人がゼロになった後に「食」のカルチャーをもう一度作り上げるのは無理ではないかと思います。
荻野:継承者のいない伝統工芸が消えているように食文化も消えるかもしれません。日本の重要な価値だからなくしたくないですよね。
中道:日本人はあまり海外に出ないので、日本のものがどれだけ素晴らしいか見えてないのかもしれません。海外生活を2年ぐらいすれば、日本の食事がいかに美味しいかわかると思うんですけど。
荻野:そう思います。インバウンドが増えたのも、日本で日本食を食べて魅力を感じて、それがどんどん広がっているというのもあると思います。インバウンドと日本の食文化を結びつけることで日本の農産物を海外のテーブルに乗せられるようになるかもしれません。
中道:日本酒は海外でも欲しがっている人が多いので、すごく可能性があると思うんですけど、例えばフランスでは、まずソムリエ業界にお伺いをたてなければいけない。そこでOKが出て初めてテーブルに上げることができるそうです。
でも、それでは絶対に日本酒はワインを越えられない。フランスのようにワインのランクを決めてきっちりやるようなことを、日本政府にやってもらいたいと期待するのは難しいでしょうか。