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2023.03.29 10:15

ビジョンの「小説化」で組織が強固に 現場DXのカミナシが30億円調達

カミナシCEOの諸岡裕人(撮影=藤井さおり)

カミナシCEOの諸岡裕人(撮影=藤井さおり)

ホテルや食品製造業などで現場のペーパーレス化に挑むカミナシが、3月29日、シリーズBとして30億円の資金調達をしたと発表した。

既存投資家としてCoral Capital、ALL STAR SAAS FUND、千葉道場ファンドが、新規としてみずほキャピタルが出資した。
 
2016年に創業した同社は、食品工場の帳票をデジタル化するサービスからスタート。作業現場などで働くノンデスクワーカーの業務を効率化する現場DXプラットフォーム「カミナシ」を開発する。
 
2020年6月には、誰でもノーコードで業務アプリをつくることができるサービスとして製品アップデートし、それまで手書きで記録していたホテル内の清掃状況や飲食店の賞味期限の管理もカミナシ上でできるようになった。ある導入企業では、書類の確認と承認作業に月100時間かかっていたが、それがわずか2時間半に短縮されたという。
 
DXの波も追い風となり、カミナシはホリゾンタルSaaS(業界を問わずに利用できるクラウド型サービス)として、現在300社、7000以上の現場で 導入が進んでいる。
 
今回の調達について、カミナシCEOの諸岡裕人(もろおか・ひろと)は「投資家から組織文化も評価された」と語る。実際、昨年の夏には、会社のビジョンを小説化するというユニークな取り組みを行うなど、社内のカルチャー 醸成にも取り組んできた。
 
会社のビジョンを小説化するという取組みが、具体的にどのような効果をもたらしたのか、諸岡に聞いた。

シンプルなUIが強み

2021年頃までは、国内外のSaaS業界は「バブル」と言えるほどの盛況を究めていた。しかし2022年以降は、米国を皮切りに、日本でも上場しているSaaS企業の株価下落を受け、未上場のスタートアップにも暗雲が立ち込めている。
 
そうしたなか、カミナシは2021年に11億円の資金調達をし、ファミリーレストランの「ロイヤルホスト」や天丼チェーン「てんや」、「ルートインホテルズ」など大手への導入を進めた。
 
特に好評なのがシンプルなUI設計で、「よく『現場はITリテラシー高くないから使いこなせない』と言われることも多いが、導入が無理だった試しがない」と諸岡は自信をのぞかせる。
 
カミナシの売り上げ、そして市場の成長性を評価され、今回30億円もの資金を集めることができた。ただ、投資家からのもう1つの評価点として、諸岡は「組織文化の良さ」を挙げる。
 
同社では「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」というミッションを掲げ、バリューでは「現場主義」など5つを挙げている。しかし冒頭で紹介した「小説化」を行う2022年の夏までは、明確なビジョンがなかったという。
 
会社が存在することでどのような未来が実現されるか。これを説明するのがビジョンだが、「それが欠けることで弊害があった」と諸岡は言う。
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文=露原直人 撮影=藤井さおり

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