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2023.04.07 17:30

誕生を祝う新しい文化に 世界にひとつだけの「君の椅子」

歴代の椅子に座る町の子どもたち

この町で生まれた子全員に、名前と誕生日の刻まれた椅子を贈る

塩瀬氏:次にこちらの文章は、「君の椅子プロジェクト」を自治体に提案された際のお言葉です。
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“小さな町役場に出生届を出しに来たお父さんお母さんが、

役場を出て行くとき、小脇に小さな椅子を抱えている。

それを見たまちの人が、「赤ちゃん生まれたんだね、おめでとう」
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そう言えるまちの風景を作っていきたい“

いたずら書きは成長の記録
磯田氏:かつての日本には、貧しくても「向こう三軒両隣」の関係性がありました。でも今は、”豊かな社会”と言われながら、お互いを支え合う地域の力を失っている気がします。子どもは地域の宝、子どもが健やかに成長しない限りどんな職種も成り立たないという原点を皆、忘れている。

子どもが生まれることが地域社会みんなの喜びであるという、「向こう三軒両隣」の関係性をもう一度取り戻したい......、そうした町の風景を20年、30年かけて作っていきたい。そんな思いを込めて自治体に提案しました。

2006年、2007年生まれの子どもが、1年生として東川小学校に入学し、クラスの子ども全員が「君の椅子」を持っていると分かった時、東川町の人たちは、町に一つの光景が生まれたと感じたはずです。7年の歳月がつくり出した町の風景......、時間がつくり出した価値と言っていいでしょう。

参加してくれている自治体には、これからゆっくりそうした風景が広がっていくことになります。


新しい椅子より壊れた椅子を大切にする子ども 壊れた椅子を直す職人の喜び

塩瀬氏:次に、「君の椅子プロジェクト」に関わった職人さんの言葉もご紹介します。

“自分の手元で生まれる椅子の数だけ、新しい命が誕生している。

従来の商品作りとはまた違った手応えがそこにある。

人はなぜ、何のためにものを作るのか。

答えはひたすら手を動かすうちに、おのずと導かれることだろう“

また、磯田さんはこんなこともおっしゃっています。

“君の椅子プロジェクトは、地域社会の関係性を少しでも身近に手繰り寄せていくことを願い、「時間を味方につける」という思いで、棄てられない椅子、万一壊れたとしても修理する人が待っていてくれる椅子、そして生涯に寄り添ってくれる椅子、を世に送り出していきます。“

磯田氏:この椅子は技術レベルの高い職人が作っていますが、やっぱり形あるものは壊れることがあります。お子さんが乱暴に扱って壊すことも何回かありました。

カッとなった子どもが、床に椅子を投げ、座面が割れてしまった時、お母さんは、「これはお前だけの椅子ではない、私たち家族の椅子だ。それをお前が壊していいのか」と子どもを叱ったそうです。落ち込んだ子どもの姿を見たお母さんから「なんとか直してもらえませんか」と、連絡が入りました。

作った職人さんが見事に修復してくれたのですが、修復された椅子が戻ってきた時、お子さんは、本当に嬉しそうに椅子をなでていたそうです。お母さんから「子どもも椅子を壊した事で成長してくれた」とお手紙をいただきました。

戦後、「新しさ」を価値として「壊れたら捨てる」ことで経済成長したのですが、このプロジェクトは、万が一壊れたら、直す人が待っていてくれる取り組みなのです。

「壊れたことを嘆く職人」ではなく、「直しに来てくれたことを喜ぶ職人」、それは、過去に置き忘れてきた「職人冥利」を一つ取り戻したことになると言っていいのではないでしょうか。

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生まれてくれてありがとう。~「君の椅子」プロジェクトが育む地域の未来~「君の椅子」プロジェクト代表 磯田憲一氏×塩瀬隆之氏対談

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