ブルガリアの椎茸業者が絶句──
こんなことがありました。2020年2月、ドイツのニュルンベルクで毎年開かれる「BIOFACH」という世界最大級のオーガニック食品見本市に出展したときのことです。時はちょうど、新型コロナウイルスが問題になり始めた頃。会場ではまだ誰もマスクはしていませんでしたが、中国からの出展者はゼロでした。なので、椎茸を出展していたのは、僕と、あともう1社、ブルガリアの女性だけでした。そんなわけで、椎茸のかぶりものをしている僕に、彼女がおもしろがって話しかけてきたんです。
「どうやって栽培しているのか」と聞くので、菌床ではなく、原木から自然栽培しているよ、と答えると、「うちもよ」と彼女が胸を張る。ところが、「ちょっと食べさせてみて」というので、試食用に出していた椎茸の煮物を出すと、一口食べて彼女は絶句、その場を立ち去ってしまったのです。
翌日、僕が自社のブースに行くと、彼女が険しい表情で立って待っている。これはやばいぞ、難癖をつけられそうだ、と思いながら近づくと、「どうしてこんなに味が違うのかわからない。理由を教えろ」というんです。流れで、彼女が用意していた試食品も食べさせてもらって、今度は僕の方が絶句した。だって食感がスポンジみたいだし、うま味がまったくないんです。
逆に、「どうやって作っているの?」と聞くと、「ドリルで穴を明けて、菌を入れて──」という答えでした。そこは僕たちと同じだったので、「じゃあ、原木は何の木を使っている?」と聞くと、「シラカバ」という答えが返ってきて。
このことからも「木」が一番大切ということがわかりました。それで、わが社が使っている「クヌギ」が、世界でどれくらい生育しているか調べると、ヨーロッパや北米にはほとんどない。アジアの一部、本当に限定的な地域でしか生育しない木であることがわかりました。
この時の経験からも、われわれの椎茸が「真似されないプロダクト」であることに、意を強くしましたね。
ドバイの超富裕層にもリーチ、「世界のSUGIMOTO」へ
今回のドバイ出張は、「ドバイに原木椎茸の市場があるか」の調査目的で、林野庁の予算で行ってきました。実は、日本の企業が「ドバイで販売をしたい。どこか紹介してください」と言うと、たいていは日系の販社に紹介される。でも、それでは本当の海外進出ではない。僕たちの目線の先にあるのは、ドバイ現地の販社やレストラン、そしてシェフです。
ですから、今回、 総領事館を貸し切って開催されたパーティーでは、デュッセルドルフで日本食親善大使もしているレストラン『Nagaya』オーナーで2009年、ミシュランの星も獲得したシェフの長屋佳澄氏に、「椎茸でフレンチを作ってください」と頼みました。
ドバイには「1晩の売上げ1000万円」といった超高級レストランがごまんとあります。そんな店のひとつで、ロシアの超財閥資本下のレストランの人気シェフや、別のレストランのスターシェフ(SNSのフォロワー360万人)が今回の出張中に、弊社の椎茸を使って長屋氏が作ったフレンチを食べるや、「なんだこのうま味は!」と激賞してくれたんです。
このロシアの超財閥資本は近々、ドバイで日本食レストランをオープンするそうです。そこにSUGIMOTOの椎茸が使われることになるかもしれません。