ストーリーには絶対的な力がある
僕らが海外に出てみてわかったことは、なんといっても「ストーリー」の威力でした。外国に行く前に、まずは商品パッケージのデザインに非常に時間を割いたんですが、実はパッケージはどうでもよかったんです。
海外で試食会を開いてみて驚いたのは、アメリカや、ヨーロッパの人たちは、試食した時に「なんでこんなに食感が違うんだ」と聞いてくることでした。そこで、
「この椎茸は、甘い樹液を出すクヌギ原木を伐採するところから始めて無農薬で露地栽培しています。具体的には『玉切り』したあと『植菌』、密集させて管理しやすい場所で『仮伏せ』し、原木が朽ちて軽くなってから『本伏せ』すると、夏が2回訪れた後に発生します。採取直後は、生産者が乾燥させます。また、伐採後の原木は切り株から勝手に芽が出て、15年ほどで再び伐採の時期を迎えます」
などと説明するとものすごく熱心に耳を傾けてくれ、「ワオ! サステナブル」と驚きます。
実は商品パッケージよりも、はるかにストーリー、すなわち商品の成り立ちや、そのモノが含まれる文脈が大事だったんです。そして、ストーリーがあるものは高くても売れる。そして、とくに富裕層は最高に安全な食べ物、自分が健康になれる食べ物にはお金を惜しまないんですよね。
まずは日系企業とアマゾンから
とはいえ僕らは山の中のちっちゃな会社ですから、輸出のことなど何も知らない。まずは、米国の食品流通会社、日本食材を扱う仲介業をしている日系企業と商談を繰り返しました。しかし彼らは、アメリカの日系スーパーに食材を卸すことは得意でも、米系の企業にプレゼンして、新しい商品を入れる経験がない、もっと言えば、やる「必要がない」のです。
だから僕らの椎茸を紹介しても、「すごいですね!」とは言ってくれても、ビジネスは一向に始まらない。おかしいな、と思って米国現地で実際に米系のスーパーに行くと、中国産を含め、椎茸など一切ない、すなわち、「米系のスーパーが椎茸を欲しがっていない」状態を見て、なるほど、と腑に落ちたのです。
日系のスーパーはどうかといえば、そこにはすでに安い中国産の椎茸が日本産と並んでどっさり並んでいます。安定した需要があるから、「おいしいが高い」日本の椎茸を仲介しよう、という動機が、当然、彼らにはないんですよ。
米アマゾンで「ストアページ」ができる!
そこで、ECをやらなければ、と思った。米アマゾンで「dried shiitake mushroom(干し椎茸)」と検索すると 恐ろしいほど多くの結果が出てくる("dry shiitake mushroom"で93件、"dried shiitake mushroom"で143件)のですが、 ほぼすべてが、やはり中国産だったのです。正直、あまりおいしくない中国産椎茸をこれだけ買っている人たちがいるのであれば、日系のスーパーには卸せなくても、ECならいけるのでは、と思いました。アメリカ人の中には「高くてもおいしい椎茸が食べたい」消費者も必ずいる、と。
アマゾンのマーケットプレイスに出品したのは、それが理由でした。
でも、アメリカのアマゾンで自社製品を販売している日本の食品会社は、少なくとも僕らが出品した当時は10数社しかありませんでした。「アメリカの」FBA(Fulfillment by Amazon=アマゾンフルフィルメント)を使ってアメリカで販売するのは、やはりなかなか難しいんですよね。
そこで、まず日本のアマゾンで売り始める必要がある、と思いました。でも、まずは「日本の」アマゾンの「干し椎茸」カテゴリーでかなりの実績を積まないかぎり、アメリカには出せないだろう、とも考えました。なので、日本のサイトのトップ10位以内に入ったところで、米アマゾンにファーストコンタクトしたわけです。正攻法で、「セラーセントラル」から、レギュレーション通りに入力して出品しました。
アマゾンを利用して良かったのは、やはりなんといってもカスタマーレビューですね(編集部注:現在、Japanese Dried Shiitake DONKO, 25-42mm, 70gにはカスタマーレビュー396が書き込まれ、星平均は実に4.4。Forest-grown Japanese Shiitake Powder 40g, Natural Umami Boosterにはカスタマーレビュー222が書き込まれ、星平均4.3である)。僕らが自分で紹介しなくても、彼らアンバサダー、エバンジェリストになってくれるんです。それが初動の押し上げにつながりましたね。
「SUGIMOTO Store(杉本ストア)」のストアページ(冒頭で紹介)ができたことで、ECではかなり拡散、購入されるようになりましたが、アメリカの物理的なスーパーには依然、椎茸はないので、まだまだ市場が確立されたわけではない。これからです。