アート

2023.03.16

都市にカルチャーが生まれる「場所」をつくるには?

(左から)吉田山、井上岳

肩書きは「アーティスト」「建築家」だけじゃない

——それぞれ領域を越えながら様々な活動をされていますが、ご自分の軸はどんなところにありますか。

吉田山:僕は、フィールドワークをしながらアートスペースの立ち上げや作品制作、展覧会のキュレーション、ディレクション、コンサルティング、執筆などを行っています。このような活動のモチベーションは、“自分の想像の外のイメージに出会いたいことと、そのようなものを自分で創造したい、という矛盾から生まれるエネルギーです。

展覧会を開催するうえでも、社会的や経済意義を掲げるのではなく、アートや文化のクオリティを純粋に追求しています。そのことによって、社会や世界に接続されるんじゃないかという思いからです。ただ、閉鎖的や自己中心的にやるわけではなく、コミュニケーションやリレーションは大切にしています。

井上:僕も、建築設計として万博施設や住宅を手がけたりと様々です。

最近、主宰しているGROUPとしては「手入れ」という概念をテーマに制作することが増えています。「手入れ」とは、自分たちのものではない場所を自分たちの居場所にするための最小限の行動なんじゃないかと思っています。

例えば、歌舞伎町の新宿東宝ビル周辺に集まる「トー横キッズ」。彼らは、地べたに座り込んで荷物を置き、「手入れ」することでいつのまにか自分たちのテリトリーをつくっていますよね。それは、建築の最小限のあり方なんじゃないかと考え、リサーチや制作活動をしています。

渋谷の街をXR技術で「拡張」する

——2人は、2022年にCCBT(シビック・クリエイティブ・ベース東京)で採択された企画「街を舞台にしたAR展覧会」にたずさわってきました。どのような経緯でスタートしたのでしょうか?

吉田山:メディアアーティストのゴッドスコーピオンさんから「CCBTでアーティストフェローという企画補助のコンペがあるから一緒に企画展を考えて提出しよう」と提案されたことをきっかけにスタートしました。その後、ゴットスコーピオンさんが所属するSTYLYのXRプロデューサーの浅見和彦さんにも参画してもらいました。

井上さんには建築家として、展覧会の空間構成や建築パートの出展作家の選定をお願いしました。僕の役割はゴッドスコーピオンさんとの共同での企画とアートディレクション、キュレーションです。

——その企画が形になり、3月10日から21日まで、渋谷の市街地を舞台に「Augmented Situation D」と題した展覧会を開催中です。どのような展覧会なのでしょうか。

吉田山:簡単に言うと、スマホをとおして街中のARアート作品を見ることができる都市回遊型の展覧会です。

副題が「都市空間とXR空間が交差し拡張する都市型展覧会」なのですが、渋谷中心部の11カ所にリアルな空間とXR空間とが交差するポイントがあり、そこで8組のアーティストの作品を鑑賞することができます。
代々木公園に展示されたMarkus Selg「THE PORTAL/MAGNOLEYE」

この仕組みは、国土交通省が開放している3D化した都市のデータを、クリエイティブプラットフォームアプリ「STYLY(スタイリー)」(Psycihc VR Lab)に取り込んで制作しています。スマホなどの位置情報が取得できるデバイスを用いると、特定の場所(範囲)だけで作品が表示される仕組みです。

井上:GROUPとしても作品の制作を行なっているのですが、ほかに建築事務所としてALTEMYさん、山田紗子建築設計事務所さん、ニューヨークからはANYさんにも参加していただきました。
渋谷スクランブル交差点に展示されたALTEMYの「Weaving Behavior」
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文=尾田健太郎 取材・編集=田中友梨 撮影=杉能信介

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