井上:オフィスが神泉にあるのでゆかりはあったのですが、今回作品をつくるにあたって街のリサーチをしました。
地理的なことを調べてみると、渋谷は昔から川が集まっていた地域ですが、現在は人工的につくった渋谷川があるだけで、自然の川は存在していないことがわかりました。そこが面白くて。
今回の展覧会ではスマホを通してフィクショナルな作品を観ていただきますが、渋谷川もある意味フィクショナルな存在だと思います。それにインスピレーションを得て、水をモチーフにしたAR作品も制作しました。
GROUP「渋谷の手入れ」
「バーチャル渋谷」には可能性がある
——都市とアート作品の関係性について、どのように考えていますか。吉田山:僕はアートや文化の芽生えが、街中の雑草のようだなって思っているんです。まずは雑草のように人知れず勝手に生えてきて、誰かにとっては重要で、誰かにとっては不要で。
だから、街に雑草が生える余白があることが必要だと思っています。井上さんの言う「手入れ」が必要であり、それによって文化やアートが栄えて人が集まる場となり、街自体の活性化にもつながると思います。
今の渋谷にはそうした環境があまりないので、そういう意味で、「バーチャル渋谷」とリアル空間との連動で生み出される街の余白に、新たな文化やアートが生まれる可能性があります。
——今後の展望は。
吉田山:今回の展覧会は世界でも珍しい取り組みなので、試した方法をブラッシュアップしたり、フィードバックを含めてアーカイブ化したりしたいです。そして、この方式の展覧会を海外に持っていけると面白いかなと思っています。
自分が覇権を取っていくのではなく、フラットに情報交換をして、興味がある方たちとこの方式を発展させていきたいなと思います。
僕のモチベーションは、今回渋谷で企画した展覧会のように前例のないことに取り組むことです。それはつまり「誰も頼んでこない」ことでもありますし、先に話をした雑草になることでもあります。今後もアンプリファイなチャレンジをしていきたいです。
井上:僕は今回のような展覧会向けの作品も作りつつ、テーマとしている「手入れ」も掘り下げていきたいと考えています。その考察のなかで最近面白いと感じたのはバードウォッチングなんです。
バードウォッチングをする場所は埋立地が多いのですが、元はアパートやマンション開発の予定地だった場所が放置されるうちに野鳥が集まることもあります。その野鳥を見に来る人が増えたことで、保護区になった場所もあるんです。
このことから、何かを観察したり見たりする行動自体が、「場所」をつくり出す行為になるんじゃないかと考えています。何かを見ることで、ものすごく大きな場所をつくることができたら面白そう、なんて妄想しています。