本連載では、現地に1年間滞在し、スタートアップ・エコシステム調査を行う芦澤美智子が、その内部の実態を探りお届けしていきます。
今回は、卒業生である中安杏奈(なかやす・あんな)さんへのインタビューです。中安さんは東京大学医学部を卒業し医師として働いた後、スタンフォード大学経営大学院に進み、2022年にMBAを取得。現在はヘルスケア分野のベンチャーキャピタリスト(VC)としてシリコンバレーで活躍しています。
卒業から約1年経った中安さんに、スタンフォード大学で得たこと、そしていまのキャリアにも活きていることついてお話を聞きました。
3時間会話し続け、コミュニケーションを学ぶ
──スタンフォードMBAでの起業家教育に特徴はありますか?「優れた起業家やリーダーになるにはソフトスキルが大事」というのが、卒業してから改めて思うスタンフォードからのメッセージです。
スタンフォードの経営大学院はコミュニケーションやライティングといったソフトスキルの授業が多く、1年生の時は、ハードスキル(財務、会計など)をもっと教えてほしい!ともどかしく思っていたくらいです。しかし、ハードスキルのほとんどは、ツールや手法が日々変化し、使わないと忘れてしまうものも多いです。一方ソフトスキルは、日々仕事をする中で本当に役立っていますし、自分の目標を叶えるため、また良きリーダーや良き同僚になるための基盤になっている気がします。
特に印象に残っているのは、学生たちから「Touchy Feely」と呼ばれている名物授業。14人のグループで円になり、特に議題は与えられず、3時間ひたすら、「会話」をします。そしてお互いが話した内容を踏まえて自分はどう感じたか、どういう印象を受けたか、など「感情」に重きを当てて会話を進めます。
発した言葉の結果、どういう感情を自分や相手が抱くのかを学ぶんです。自分のコミュニケーションスタイルを見直すと同時に、フィードバックの仕方などについても学習していきます。
自身のコミュニケーションスタイルの要因となった個人的な過去の体験を共有したり、思いもしなかった言葉でお互いを傷つけてしまったりすることもあるため、感情があふれて涙する学生がいることも珍しくありません。