マルチバースは実在?『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の科学的根拠

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マルチバースで存在可能か?

誰かが人生に関わる異なる決断をしたらパラレルワールドでは何が起きるか、ハリウッドはそれを考えるだけで満足かもしれない。宇宙論研究者がより興味を持っているのは、もし別の宇宙が存在するなら、そこには別の物理法則があるかどうかだ。生命を育むことはできるのだろうか? それはマルチバースに関する予測の新たな研究にとって主要な問題であり、その最新論文が先に発表された。「物理法則を一部変更することで、すぐに生命のない不毛の宇宙ができることはすでにわかっています」と共著者であるルイスはいう。

つまり、命を宿す能力のある銀河を形成可能な宇宙に私たちが住んでいるのは、単なる幸運なのだろうか? そこまで単純ではない。「レアアース仮説という理論があり、私たちの宇宙が存在可能であることは明らかでも、生命のための条件はありえないほどレアであるといっています」とルイスはいう。ルイスは同僚とともに、宇宙の元素の何十億年にわたる過程を分析し、星々でどの元素が作られたのか、どのようにそれが宇宙にばらまかれたのか、どんな化学反応が起きたのかを調べた。その結果、炭素と酸素の比率(星の内部で起きた核反応によって決まる)が特に重要であることがわかった。これらの元素のバランスは重要だが、他の元素はさほど重要ではないことを実験結果は示唆していた。

「銀河の存在性を研究している人たちがいて、彼らは銀河の外縁部に生命がいる確率は著しく低く、それは単に生命にとって十分な世代の元素がないからだと考えています」とルイスはいう。つまり、私たちの宇宙に存在不可能な部分がいくつかあるなら、他の宇宙の一部、おそらく全部も存在不可能だろう。しかし、もしこの宇宙のいわゆる「存在不可能区域」に生命が発見されれば、すべてが一瞬にして変わる。「もし、その環境の多くで生命がありふれていることがわかったら(それ自体が由々しきことだが)、それは広大なマルチバース全体でも生命が存在可能であることを示唆しています」とルイスは言った。

マルチバース論に未来はあるか?

映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』はマルチバースを使用したことで大成功を収めたが、コンセプト自体が科学理論として受け入れられるまでの道のりはまだまだ長い。「優れた科学はアイデア(ときには奇抜な)から始まります」とルイスはいう。「ただし行き止まりへの道も同様です」

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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