2020年ノーベル物理学賞受賞者のロジャー・ペンローズは、ビッグバン以前に存在した初期の宇宙は、今でも宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の痕跡として観測することができると主張した。CMBとは、宇宙を埋め尽くす非常に長い波長のマイクロ波の微かな放射であり、ビッグバンそのものを示す証拠の重要部分だ。ペンローズと似た仮説が、昨年宇宙論学者のローラ・メルシニ・ホートンによって提起された。いずれも興味をそそる理論だが、いずれも根拠がない。現時点で、マルチバースはすばらしいアイデアではあるが、ほとんどそれ以上ではない。
マルチバースは証明できるのか?
現時点の理解による答はノーであり、マルチバースの議論に対して一部の科学者が冷淡なのはそれが理由だ。しかし、それは将来も科学理論になりえないという意味ではない。「それが検証可能であるかないか、まったくわかっていません」とルイスはいう。「一度、数学的手段を手にすれば、別の宇宙の存在を発見できるかどうかがわかる可能性はあります。今は、私たちがどの道を進んでいるのかまったくわかっていません」。科学者に必要なのは、検証に必要な数学的理論だ。マルチバースにはまだそれがない。パラレルワールド間を行き来することは可能か?
もしパラレルワールドが存在するのであれば、その間を行き来することができるかもしれない。「すべての宇宙が複雑な形態であることは、それがワームホール(瞬間移動できる時空の歪み)のようなものを通じて互いにつながっている可能性を意味しているのではないかと私は考えています。それは、パラレルワールドの存在が可能であり、別のワールドとの行き来もできることを示唆しています」とルイスはいう。しかし、パラレルワールド間を行き来したり、別バージョンの自分を見たり会ったりするという発想は、少々ハリウッド的すぎる。そもそも、無限にパラレルワールドが存在していて、そのどこにも生命がいなかったらどうするのか? これは、マルチバースの科学が結論を出そうとしている領域だ。