アート

2023.03.19

アーティストが常駐、建国の父が愛した郵便局ホテル

ザ・フラトン・ホテル・シンガポール「ジェイド」のエグゼクティブシェフ レオン・チー・イエン氏

アーティストが美術展を行うことは少なくないが、そのアーティストがシェフである、ということは珍しいだろう。

そんな「アーティスト兼シェフ」がいるのが、シンガポールを代表するホテル、ザ・フラトン・ホテル・シンガポールだ。2015年に歴史的建造物として認定されたこのホテルは、元々は1928年に開業した郵便局であり、長らく政府の中枢を担う省庁が入っていた。

由緒あるコロニアル風の建物では、建国の父、リー・クアンユーがここで何度もスピーチを行い、息子で現在の首相、リー・シェンロンが初演説を行った場所でもある。政府の建物だった時代にここで若き日を過ごした人の中には、12年間シンガポールの大統領を勤めたS・R・ナザンなども名を連ねる。

そんなシンガポールの心臓ともいうべきこの場所がホテルに改装されたのは1996年のこと。1998年の開業以来、地元資本の高級ホテルとして、各国からの要人来訪の際などに選ばれてきた。



VIPのもてなしに使われてきた理由は、歴史的背景や建物だけではなく、メインダイニングの中国料理「ジェイド」の魅力が挙げられる。高い天井が印象的なロビーの向かいにあり、自然をモチーフに、ペパーミントグリーンに花鳥柄が描かれた壁紙がくつろいだ印象を与える。

この店を率いるのが、エグゼクティブシェフのレオン・チー・イエン氏。シェフとしてだけでなく、アーティストとしての顔も持ち、2007年には、自らの作品を集めた本を出版。2015年には、30もの陶製のオブジェなどの作品を展示した「陶芸への心酔」と題する美術展がこのフラトンホテル内で行われた。来年には故郷マレーシアに、その作品を集めた美術館が完成する予定だ。

アーティスト一家に生まれたレオンシェフは、陶芸のみならず、絵画や書道の心得もあり、料理だけではなく、「厨房にあるものをなんでも立体の像に変えることができる」と語る。そんな技を活かした美しいデコレーションで、「Asian Cuisine Chef of the Year」など、数々の国際的なコンクールで賞を受賞している。

その技術は日々の営業にも生かされ、パーティなどの趣旨に合わせた特別なデコレーションでゲストを出迎え、特別感と驚きあふれる演出をおこなっている。店内には、所々に陶製のオブジェなど、レオンシェフの作品が飾られている。自然にインスピレーションを受けることが多く、優雅な草花などをモチーフにすることも多い。
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文 = 仲山今日子

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