これだけの機能が詰め込まれた『ABBA Voyage』の製作には、5年の準備期間と1億4100万ポンド(約230億円)が費やされている。
主演がホログラムでも、生身の出演者が多いため、複数回の公演を連日続けることは難しく、現在、公演は月・木・金曜に1回、土日が2回のスケジュールで、チケット価格は103ポンドから163ポンド(約1.6〜2.6万円)。立見席、固定席からダンスフロアー個室まで多種販売されている。
投資を回収するには少なくとも5年間続演し、300万人以上の観客が入らなければならず、40年以上のキャリアを誇り、世界中にファンを抱え、ヒット曲の数も圧倒的に多いABBAでさえ、ビジネスとして採算が取れる可能性はまだ実証されていない。
したがって、『ABBA Voyage』のような高品位なホログラムライブは、技術的には可能でも、急速な普及は望めないのが実情である。
低予算で導入可能な、新コンテンツも
一方、より低予算でホログラフィーとイマーシブ投影技術を融合させた、新たなコンテンツビジネスが誕生し、流行の兆しを見せている。今年7月に米ヒューストン自然科学博物館で公開予定の『蘇る恐竜(仮題)』で、まさにこの二つの技術を組み合わせた40分ほどのファミリー向け「エデュテイメント」コンテンツが、既存の博物館内の数百名収容のホールで展開されるという。開館時間中に複数回の入れ替えを実施し、鑑賞料金も5~7ドル程度に抑え、回転数で投資回収を図るビジネスモデルとなっている。
製作配給元のBASE Xperiential社は、10年くらい前からホログラフィーに着目し、オペラ歌手のマリア・カラスを蘇らせてオーケストラと共演させたり、先述のホイットニー・ヒューストンのホログラムコンサートといった試みを欧米で先行させてきた。ただ、話題にはなったものの、遺族に支払う権利金や会場設営費などが嵩み、営利事業としての成功には至っていなかった。
そこで企画したのが、高額なセットを組まずに、簡易に設営、移動できるイマーシブ空間を、デジタルプロジェクターと30~40万ドルほどで購入できるホログラフィー用の投影スクリーンで創出し、アーティストや飛行機、レースカー、恐竜や動物などを登場させる短尺のエンタメコンテンツや教育用ドキュメンタリー番組を製作上映するコンセプトであった。
同社の計画によると、1本あたり200万ドル(約2.7億円)程度で十分高品位な作品が製作可能で、仮にアーティストへの権利料が上乗せされても、先払いではなく売り上げに応じた分配形式で臨めば、大きなリスクは生じないとされている。
専用劇場の建設も不要で、博物館や美術館内のホールや小劇場、遊園地、空港、商業施設やオフィスビルの空きスペースなど、臨機応変に設営場所を見つけることで、作品の上映数を一挙に増やすことが可能だ。こうした利点から、新たなコンテンツとして俄かに注目を浴びている。