自閉スペクトラム症に根本的治療の可能性、「愛情ホルモン」の放出メカニズム

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愛情ホルモンとして近年注目を浴びている「オキシトシン」が、自閉スペクトラム症患者の社会性障害を改善するという報告は以前からありましたが、体内でオキシトシンが放出されるメカニズムはわかっていませんでした。岡山大学は、それを明らかにしました。細胞膜で働くあるタンパク質が、オキシトシンの放出に深く関連しているということです。

オキシトシンは女性の出産に活躍するホルモンですが、母親や父親を見つめ合うことで赤ちゃんに分泌され、赤ちゃんは安心した気持ちになります。同時に親にも分泌され、幸せな気分になります。そのため「愛情ホルモン」とも呼ばれています。親子だけでなく、オキシトシンは他人との社会性においても重要な役割を果たすことがわかっています。自閉スペクトラム症の中核症状であるコミュニケーション障害、さらに、うつ病や不安障害にもオキシトシンの機能不全が大きく関わっているとも言われています。

岡山大学、オックスフォード大学、パリ・サクレー大学などからなる国際研究チームは、細胞膜で働くタンパク質「二孔チャネル」を欠損させたマウスを使って実験を行いました。すると、マウスのオキシトシン放出が大幅に減少し、母性行動の低下が見られました。オキシトシンは脳の視床下部で作られ、顆粒小胞という小さなカプセルに収められます。これが細胞膜に近づいて結合することで穴があき、中のオキシトシンが放出されるわけですが、それを促しているのが二孔チャネルだったのです。

二孔チャネルがうまく働かずオキシトシンの放出が減ると、使われなかった顆粒小胞は細胞の掃除屋であるリソソームに食べられて分解されます。二孔チャネルを欠損させたマウスでは、リソソームが通常のマウスよりも活発に顆粒小胞を食べていたことからも、二孔チャネルの作用が示されました。

岡山大学の坂本浩隆准教授は、「二孔チャネルの機能不全が社会性障害を引き起こしている可能性」があると話しています。今後は、二孔チャネルに焦点を絞ることで、社会性障害の新規治療法の開発も期待できるとのことです。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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