この戦略は政治、軍事、経済という3つの側面から見ることができる。政治面では、米国のアジア戦略で最も重要な2つの柱になっているものは、もともと安倍元首相が提唱したものである。
・「自由で開かれたインド太平洋」構想。米国と同盟国はインド洋および太平洋地域に資源を投じて地域の民主主義をあと押ししていこうという考え
・日本と米国、オーストラリア、インドの4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」地域の主要な民主主義国による政治協議のメカニズムを構築するもの
軍事面では、日本は昨年、現在1.25%ほどとなっている防衛費の国内総生産(GDP)比を2027年度に2%まで引き上げることを決めた。グリーンはこれも安倍元首相の尽力のたまものとみている。「(防衛費増額の)政策を打ち出したのは安倍氏であり、彼の党(自民党)は安倍氏の名のもとにそれを決定した。日本の防衛費は10年にわたって減少していたが、安倍氏はそれを反転させた」(グリーン)
予算だけではない。安倍元首相は日本をいわばベンチスタート組からスターティングメンバーへと変えた。2001年9月11日の米同時多発テロ後、英国やオーストラリアは米国を軍事面で支援したが、日本は憲法上制約があるとしてこうした支援はしなかった(編集部注:当時の小泉純一郎内閣はテロ対策特別措置法を成立させ、その下で海上自衛隊がインド洋での米軍艦艇への給油などの支援を行った)。安倍氏は2014年に日本の安全にかかわる場合には集団的自衛権を行使できるように憲法解釈を変え、翌年、それを法制化した。これにより、いまでは日米が共同で作戦を策定できるようになっている。