反撃能力、国家安全保障戦略が語らない「背景」

Photo by David Mareuil/Anadolu Agency via Getty Images

政府は16日の閣議で改定した国家安全保障戦略に反撃能力の保有を明記した。国家安保戦略は保有に至った経緯について、日本周辺で「質・量ともにミサイル戦力が著しく増強されている」と指摘。「弾道ミサイル防衛だけに依拠し続けた場合、既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しくなりつつある」と説明した。

国家安保戦略が「我が国に対する武力攻撃が発生し、その手段として弾道ミサイル等による攻撃が行われた場合、武力の行使の三要件に基づき、そのような攻撃を防ぐのにやむを得ない必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」と定義する反撃能力には問題も指摘されている。

自衛隊はよく、「抑止と対処」という言葉を使う。「抑止」とは、相手に攻撃する気を起こさせなくすることを、「対処」とは、相手が攻撃したときの対応を、それぞれ意味する。反撃力については従来から、「対処」に問題があると言われてきた。「スカッド・ハント」という言葉がある。湾岸戦争当時、米軍はイラクの弾道ミサイル発射を阻止するため、イラク上空を監視し、移動発射台(TEL)の破壊を試みたが、ほぼ失敗に終わった。防衛省関係者は「イラク軍の弾道ミサイルの98%が破壊をまぬかれたという分析もあります。自衛隊が1千発のミサイルを保有しても、TELの破壊はほとんど不可能でしょう」と指摘する。

このため、政府は反撃能力の意義について、相手に「日本を攻撃したら、痛い目をみる」と思わせて、攻撃を思いとどまらせる「抑止」に力点を置いているようだ。国家安保戦略も「有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する。その上で、万一、相手からミサイルが発射される際にも、ミサイル防衛網により、飛来するミサイルを防ぎつつ、反撃能力により相手からの更なる武力攻撃を防ぎ、国民の命と平和な暮らしを守っていく」としている。こうしてみてみると、国家安保戦略の論理は整然と展開されているようにみえる。
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文=牧野愛博

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