コアを伝える言葉をもて
──山井さんは新潟県三条市で長い間スノーピークを育ててきて、地域経済にも大きく貢献しています。地方で生まれた中小企業が世界へ飛躍するスモール・ジャイアンツになるためには、どんな点が大事でしょうか?山井:誰しも地元にはポジティブな思いをもっているものでしょうが、その場所でイノベーションを起こそうとするのなら、経営者として違う評価軸をもっていないといけない。
僕は新卒で入った会社がハイブランドの輸入商社だったこともあり、26歳でスノーピークに入社したとき、地元三条の他の会社を見渡すと、なぜこんなにいいものを安く売っているのかと驚いた。
やりかたが間違っていると直感したんです。だから、自分が会社を継いだときには、「世界でいちばん高くていいキャンプ用品をつくって、稼げる会社にする」と宣言した。そうしたら、先輩の経営者たちに「お前はなにをやってるんだ」とか、「安くていいモノじゃなきゃ売れない」とか散々言われました。
──良い商品を安く売るという松下幸之助の「水道哲学」ですね。かつての日本はそれが主流でした。
山井:でも、自説は曲げませんでした。だいぶ変わり者扱いされましたよ。いまでは、「スノーピークみたいにならなくちゃ」なんて言ってくれるようになった(笑)。
さらに海外展開していこうとするなら、まずは自分たちがどんな会社であり、どんなミッションに基づいたものなのか、そして商品は他社と何が違うのかをより明確にするべきでしょう。
自分たちが大事にする「コア」を伝える言葉をもつことです。スノーピークも「人間性の回復」「人生に野遊びを」など、ミッションや事業を端的に表す言葉を多く言語化してきました。これによって社内カルチャーも大きく変わりました。
──いまの日本の中小企業を取り巻く環境についてはどのように捉えていらっしゃいますか。
山井:いまは中小企業にこそ有利な時代です。環境や時代の変化にもすぐ対応できるし、経営判断も早くできますから。また、経営の仕方にも大きなシフトチェンジが見えます。
これまで当たり前とされてきた「損得軸」に基づく経営よりも、その商売や製品が好きだという「好き嫌い軸」での経営のほうが、結果的に成功しやすいし、これからは絶対に強いはずです。
私はこれを「マニア資本主義」と呼んでいるのですが、例えば虫のスペシャリストを採用している環境機器のように、虫が好きな人じゃないと気づけないこと、つくれない商品がある。極言すれば、損得軸のマーケティングならAIでもできます。
高度な資本主義経済に生きる生活者は、サプライされた製品への要求が高いので、「好き」に共感してくれる可能性も高い。中小企業の皆さんは後継ぎも多いと思いますが、自分が好きなことで勝負するのがいいと思う。
家業と違う好きなことを突き詰めるか、家業を好きになってそのなかでイノベーションを起こすか、どちらかだと思う。そう考えると、スモール・ジャイアンツは、日本の可能性そのものだと思います。
やまい・とおる◎1959年新潟県生まれ。明治大学商学部卒。外資系商社勤務を経て86年に実父が創業したヤマコウに入社。96年、同社の代表取締役社長に就任し、スノーピークへと社名変更。キャンプ用品の開発におけるパイオニアブランドとして地位を確立した。著書に『スノーピーク「楽しいまま!」成長を続ける経営』(日経BP)など。
『Forbes JAPAN 2023年4月号』では、規模は小さいけれど偉大な企業「スモール・ジャイアンツ」を大特集。受賞7社のインタビュー記事やスノーピーク代表の山井太、経営学者入山章栄ら、有識者によるオピニオンも掲載。世界で勝負する彼らは、どのようにその「強み」を差別化し、武器にして成長してきたのか。独自の方法で可能性を切り拓いた試行錯誤の道のりには、多くのビジネスのヒントが詰まっている。