ビジネス

2022.02.26

世界初の製品を生み出し続けるデバイスメーカーの秘密|生方製作所

生方製作所 代表取締役専務 生方眞之介

発売中のForbes JAPAN 2022年4月号の特集「世界に希望を灯す『スモール・ジャイアンツ』」でグランプリに輝いた愛知県のデバイスメーカー、生方製作所。2つの製品でシェアトップの地位を確立し、新たに開発した世界初の安全デバイスでは電気自動車の市場を狙う同社。革新的な製品を生み出し続けることができる秘密に迫る。


「『UDT2』がノミネーション(量産の受注確定通知)をもらいました」

2020年6月、ある夕方の商品企画会議。創業家3代目である代表取締役専務の生方眞之介は、営業担当の取締役を務める弟、生方将の報告を聞いて耳を疑った。

このところ新たに開発した製品で世界トップシェアに育ったものはなかった。UDT2の量産契約が取れたら、同社から約40年ぶりに世界的な商品が生まれることになる。うちにしかつくれない製品で、また勝負ができる──。

眞之介はビッグニュースを事もなげに報告した弟に驚くと同時に、久しぶりに血が沸き立つのを感じていた。

UDT2は、生方製作所が開発した自社ブランドの高電圧・大電流用直流遮断器だ。主な用途は、EV(電気自動車)に搭載される水加熱ヒーター。制御システムの不具合で水加熱ヒーターが高温になりすぎると、最悪の場合、引火して車両火災が発生するおそれがある。直流遮断器は、熱による形状変化によって回路を物理的に切り離し、電気系統が万が一壊れても電流を遮断。EVにとって命綱となる部品だ。

開発のきっかけは、14年にある重工メーカーからEV向けの直流遮断器がつくれないかと相談されたことだった。開発に挑むメーカーはほかにもあったが、成功例はないのだという。高電圧・大電流を要するEVでは、回路を物理的に切り離しても、アーク放電が流れてしまう場合があるからだ。

生方製作所は、その問題を絶縁物の板を挟む機構でクリア。DC800V、40Aの高電圧・大電流でも安全性を確保した。「競合も板を挟む機構にトライしたようですが、うまくできなかった。うちがなぜできたのか?それは秘密です」(眞之介)


自社ブランドの新製品である高電圧・大電流用直流遮断器「UDT2」。電気自動車の水加熱ヒーターに組み込まれ、万が一電気系統が壊れたときに安全性を保つ。

大事なところはけむに巻かれたが、大手メーカーでさえ完成させられなかったものを生方製作所が開発できたとしても驚くにあたらない。同社はセーフティ・テクノロジー分野のグローバルニッチトップ企業。自社の製品群を「サイレントヒーロー」と総称しており、もともと業界では技術力に定評があった。
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文=村上 敬 写真=前 康輔 ヘアメイク=Yoboon(Coccina)

この記事は 「Forbes JAPAN No.092 2022年月4号(2022/2/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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