北米

2023.02.12

車でAMラジオが聴けなくなる日 EVで排除進む

ラジオの電波塔(Photo by David Goldman/MediaNews Group/Boston Herald via Getty Images)

緊急時の通信手段としての重要性

AMの周波数帯域が使われなくなると、気象災害や国家的な緊急事態の際にきわめて重要な役割を果たす通信に支障が出かねないという問題も指摘されている。防災当局がAMの停波に反対姿勢なのには非常に現実的な理由があるのだ。

こうしたなか、民主党のエドワード・マーキー上院議員(マサチューセッツ州選出)は昨年末、米国市場に参入している自動車各社に対して、無料放送のラジオは政府当局にとって情報伝達の「重要で信頼できる手段」だとして、AMラジオを搭載し続けるよう要請している。

EVでも引き続きAMラジオを搭載するメーカーも何社かある。技術面やコスト面の課題は克服可能だということなのだろう。たとえば韓国の現代自動車(ヒョンデ)は「ヒョンデと(高級車ブランドの)ジェネシスの今後の製品に関して、AMラジオやFMラジオの搭載をやめる計画は、現時点でない」と筆者の取材に答えている。

業界団体の米国自動車イノベーション協会(AAI)はこの問題について、メーカー側を代弁してこう述べている。「放送局などと定期的に連絡をとり、共通の顧客の進化していくニーズを満たしながら、顧客が会員企業に期待する高品質の製品を提供していくための道筋を探っている」

自動車売買サイト「オートトレーダー」のブライアン・ムーディ編集長は、車内での最も重要な接続はもはやFMラジオですらなく、ブルートゥースやUSBケーブルを介したスマートフォンなどのデバイスとの接続になっていると説明する。「若い購入者にとっては、スマートフォンと接続するための画面や端子があれば十分なのだろう。最近のスマートフォンやSpotify、Apple Music、(グーグルやアップルの)Maps、Waze(といったアプリ)があれば、多くの車載システムは不要だということだ」

米国の昨年の新車販売台数に占めるEVの割合は前年比2倍に増えたとはいえ、まだ6%弱にとどまっているのが現状だ。なので、EVのオーディオ環境に今後どのような変化が起きるにせよ、米国人が車内で何を聴けて何を聴けなくなるかがはっきりするまでには、しばらく時間がかかりそうだ。また、最初に述べたように、AMラジオはスマートフォンや車載WiFiを使えば車内でも聴くことができるほか、多くのAMラジオ局がFMの周波数帯への信号変換を進めているという事情もある。

ラジオ業界誌トーカーズの発行人マイケル・ハリソンは「ラジオに存続の危機が迫っているわけではない」と述べ、こう続けている。「AM放送が直面している最大の問題は、ほかのどんなメディアと比べてもその音がお粗末すぎるという点だ」

forbes.com 原文

編集=江戸伸禎

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