注目が集まる「幻覚剤の少量投与」について心理学者が解説

幻覚剤のマイクロドージングによって認知力や気分を高めることがトレンドだが、その仕組みは解明されているのだろうか(Getty Images)

セラピーにやってくる人の多くが、マイクロドージング(幻覚剤の少量投与)の治療効果について知りたがっている。気になる質問としては以下のようなものがある。

・マイクロドージングを受けてから、頭が切れるようになって仕事の生産性が上がったように見える同僚がいます。これは単なるプラシーボ効果なのか、それ以上の何かのなのでしょうか?
・今のメンタルヘルス状態に、マイクロドージングが適しているかどうか、どうすればわかるのでしょうか?
・マイクロドージングの長期的な影響について知っておくべきことはありますか?

ここ数年、幻覚剤のマイクロドージングがトレンドになってきている。マイクロドージングとは、薬物を知覚できないほどの量、一般には娯楽用投与量の1/10から1/20程度のごく少量を摂取することだ。これは、本人が完全な幻覚作用を感じないことを意味しているが、それでも気分や活力、認知機能などに微妙な変化を感じる可能性はある。

多くの人が、生産性や創造力、さらには幸福感全般を高める方法として、マイクロドージングに注目し始めている。しかし、どんな薬物でもそうであるように、マイクロドージングを行う決心をする前に、その潜在的なリスクと利益を理解しておくことが重要だ。

マイクロドージングをやってみる前に考えるべきことを2つ挙げる。

#1. 科学的に未熟で曖昧

マイクロドージングに関する研究はまだ初期段階にあり、その影響や潜在的利益についてわかっていないことがまだたくさんある。マイクロドージングが集中力や創造性、幸福度を高める原因になることを示唆する証拠はいくつかあるが、その主張を裏づける決定的かつ厳密な科学的学研究は存在しない。

例えば、学術誌のNatureに掲載されたこの研究を見てみよう。この研究では幻覚剤、具体的にはサイロシビンの少量投与がメンタルヘルスおよび幸福感に与える影響を、マイクロドージング使用者および非使用者を自己選択した被験者について調査した。研究結果は、 幻覚剤を少量(準知覚量)使用した場合、鬱、不安およびストレスを改善する可能性があることを示した。

約9000名という大きい標本サイズにかかわらず、この研究には重大な制約がある。たとえば、被験者は自己選択によるものであり、被験者がマイクロドージング使用者であるかどうかを確認するために研究者が尋ねた質問は「あなたは現在マイクロドージングを定期的に行っていますか?」というものだった。

「マイクロドージング」という用語が明確に定義されていないことに注意されたい。対照試験環境の不備は幻覚剤研究に共通する課題であり、それは、幻覚剤が多くの地域で「スケジュール1(規制物質法上で、あらゆる状況においても使用を禁止)」に分類されているためだ。この分類が対照試験の実施を困難にしており、この薬物に対する理解が進まない理由だ。

幻覚剤の治療効果を調べる研究結果は、慎重に解釈する必要がある。このような当初有望視された研究の一般化可能性(外的妥当性)の信頼度を高めるためには、追加の研究、特に長期にわたる研究が必要だ。
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翻訳=高橋信夫

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