そしていよいよメインの登場。表面をガリッと香ばしく、中を綺麗なロゼ色に仕上げられたチュレタは、嚙み込むほどに旨味が溢れ、肉を食べている実感を歯と舌に強烈に訴えかけてくる。分厚い脂身も思いのほか軽く、さわやかな甘みすらあり、最近脂っこいお肉が食べられなくなってきた筆者でも、ついついキレイに平らげてしまった。
バスク名物に、クラシックなリオハを飲む、地産地消体験
赤ワインとお肉を合わせるときは、咀嚼感と渋みの強さを合わせるとうまくいく。咀嚼を多く必要とするお肉には、渋みの多いワイン、軽やかなお肉には、渋すぎないエレガントなワイン。ここのチュレタは思いのほかきれいな肉質なので、ワインもエレガントな方がお肉に合いやすい。グラスワインも何種類か揃っているが、ボトルメニューも各国のワインが充実していて、値付けも良心的だ。常連らしい老夫婦が、地酒のシードラ(林檎の発泡酒)を1本頼む粋な姿を横目に見つつ、せっかくなら赤ワインを頼みたい。
選んだのは「ビーニャ・トンドニア・ティント・レセルバ」2010年。生産者のロペス・デ・エレディアは、バスク地方と隣接するワインの銘醸地リオハ最高峰の造り手の一つだ。
アメリカンオークでの長期熟成を貫く伝統的なリオハワインであり、お店の人も「リオハとは何かを知るには、まず飲むべきワイン」と太鼓判を押す。やや縁がオレンジかかったルビー色に期待しながら口に含むと、枯れ葉やタバコ、紅茶といった大地を感じさせる複雑なブーケに、まだ果実味も感じられる。舌触りは絹のようになめらかで軽やかにすら感じるのに、複雑で余韻の長い、良くまとまった上品なワインだ。
このいい意味での重心の高さが、脂のきれいな赤身のチュレタにピッタリで唸ってしまった。ふと横のテーブルを見ると、ビジネスマン風の外国人男性二人組も、同じワインを開けている。「ナイス・チョイスだね」と思わずにやりと微笑みあった。