また、メイン料理として一度は食べてほしいのが、地元の名物料理Turbot(ヨーロッパカレイ)だ。まるごと炭焼きにされた強面の魚は、テーブルに運ばれてきた後、サービススタッフによって目にもとまらぬ速さで取り分けられていく。しっかりと詰まった弾力のある白身に、脂がのった芳醇な旨味が口いっぱいに広がるあの味わいは、淡泊な日本のカレイとはまるで別物で、たとえお肉をオーダーしなくても上質な満腹感と満足感に十二分に浸らせてくれる。
カイアカイペの絶好のフォトスポットである店前の炭焼き台では、いつも様々な魚介類が専用の焼き網に挟まれて焼かれているが、あのカレイの美味しさを知ってしまうと、その焼かれている姿にすら感動を覚えてしまう。それほどの一皿が、ここにはあるのだ。
選んだワインは、おすすめの地元のスパークリング
さて、ワインは何を選ぼう。エルカノ同様、充実したワインリストのあるカイアカイペには、スペインワインのバックヴィンテージからボルドー、シャンパーニュ等まで豊富に揃っている。地産地消をこよなく愛する筆者がこの日選んだのは、地元のワイン。バスクの地酒といえば、「チャコリ」という極辛口の微発泡ワインが有名で、高い位置から大ぶりのコップにチャコリを注ぐ様はバルで見かけるお決まりの風景だ。
今回はひねりを効かせて、そのチャコリの白ブドウを使ってリオハの名産者アルタディが造るスパークリングワイン「イサル・レク」2016年を選んでみた。
チャコリは微発泡(泡がないものもある)なので、シャンパーニュ製法のワインは珍しい。爽やかさと酵母由来の複雑味が入り混じるコストパフォーマンスの良い1本で、カレイが骨だけになる頃、ワインもキレイになくなった。
2. Casa Julian(カーサ・ジュリアン)
バスクに来たのなら、名物のチュレタ(骨付き牛リブロース)は絶対に外せない。ということで、次は少し内陸に足を伸ばして、カーサ・ジュリアンに向かってみよう。カーサ・ジュリアンは、サンセバスチャンから車で30分ほどの小さな山間の町トロサにある。
ここの名物は、牛の熟成肉を炭火で焼き上げる豪快なチュレタ。ダイニング脇に鎮座する焼き台では、岩塩をたっぷり散らされた分厚い牛肉が、大量の脂を滴らせ、炎と煙を巻き上げながらじっくり焼き上げられていく。古来より火は人間の本能に訴えかけてくる何かを持つと言われるが、牛肉を照らすように立ち上る炎や、炭が弾ける音、またそこから膨らむ芳醇な香りを五感で受け止め続けていると、食欲とは異なる不思議な高揚感に包まれるから本当に不思議だ。