最後に紹介したいのが、スペインで最も有名なレストランの一つ、エチェバリ。「世界のベストレストラン50」トップ10の常連で、過去に2度(2019年、2021年)3位に輝いたこともある、世界屈指のガストロノミー・レストランだ。
エチェバリは、ビルバオからもサンセバスチャンからも車で1時間ほどのアシュペという小さな村にある。世間の喧騒から離れた、バスクの山奥にある古い石造りの一軒家レストランで、周りには壮大な山々と牧草地と民家が広がっている。
シェフのビクトル・アルギンソニス氏が店をオープンさせた当初は、いわゆる村の食堂という扱いで、1日の客数が300人を超えることもあったと聞く。今ではそんな過去がまるで冗談かのように、世界中の美食家の目的地となっているというのも、また面白い。ちなみに、日本人の前田哲郎氏が長らくスーシェフを務めていたことも、近年日本で知名度が上がっている要因かもしれない(前田氏はエチェバリと同じ村で、今年春にレストラン「Txispa(チスパ)」をオープン予定)。
約30年で村の食堂から世界的な名店へと、アメリカンドリームならぬスパニッシュドリームを実現してみせたビクトル氏とエチェバリ。窓の外には、噴水で遊ぶ地元の子どもたちの姿や、広場でくつろぐ地元の方々の姿が見える。ファインダイニングではあるものの、どこかローカルなカジュアル感が漂っているのも魅力の一つなのだろう。
エチェバリの名物は、素材の魅力をひき出した薪焼き料理。炭火ではなく水分の多い薪を使うため、火加減の調節が難しく、想像以上の熟練を要する。料理は素材重視でシンプルな構成だが、それだけにごまかしが効かず、引き算の美学がある。
アラカルトメニューもあるが、季節のおすすめを楽しみ尽くしたいなら、約14品構成の「Tasting Menu」を選ぶのが良いだろう。薪の香りをまとったチュレタはとにかく絶品だが、時期によってはパラモス産の海老やカメの手など希少な美味も楽しめる。
ちなみに一つアドバイスをすると、もしもコースを頼むのであれば、その後の予定は詰め込みすぎない方が賢明だ。ランチとはいえ、筆者の場合は最低でも3~4時間、のんびりしていたら6時間近く経っていたこともあり、楽しすぎるがゆえに時間感覚を失いがちになることを伝えておきたい。
移動にタクシーを使う場合、行きに乗ったタクシーにあらかじめ迎えを頼んでおくのも一つの手だが、その際は退店時間を見誤らないよう要注意だろう。