暮らし

2023.01.22 11:00

人生の最期は自宅へ。5階建て「おうちにかえろう。病院」の仕掛け

病院内で会話する患者とスタッフ /「おうちにかえろう。病院」 提供

病院内で会話する患者とスタッフ /「おうちにかえろう。病院」 提供

自分の人生の終わりをある程度選択できるならば、どこでどんなふうに死にたいか。

多くの人が憧れるのは、慣れ親しんだ自宅で、長く苦しまずに命を終える“ピンピンコロリ”ではないだろうか。

そんな私たちの希望に、日本の医療は本当に寄り添ってくれるのだろうか。

東京板橋区にある「やまと診療所」で在宅医療を手がけてきた医師・安井佑も、同じようなことを考えていた。

「“⼈⽣の最期は⾃宅で迎えたい”と、在宅医療を選択される患者さんは多い。ただ、ご本人の病状や介護者の問題で自宅での治療が難しい方もいます。私は日々の診療の中で、そういった方々のフォローができる病院が必要だと感じていました」

それを具現化したのが、2021 年4 ⽉に開設した「おうちにかえろう。病院」だ。名前の通り、入院患者が⾃宅に帰ることを前提にした地域包括ケア病棟で、院内には、精神的にも肉体的にもおうちに帰りたい気持ちを後押しする仕掛けが多数ある。

2022 年度のグッドデザイン賞、日本ネーミング大賞 審査委員特別賞を受賞した。

安井佑

関連記事»最期まで⾃分らしく⽣きてほしい。42歳医師が「死に際」に向き合う理由

病院の1階は「まちとの交差点」

「おうちにかえろう。病院」は、やまと診療所と同じ板橋区内にある。5階建てで、2〜4階に病棟機能を持ち、5階にオフィススペースや保育施設がある。

利用者は主に、急性期病院から地域の住まいへ帰る前の患者と、普段は自宅で在宅医療を受けながら、糖尿病・心不全・神経難病などの療養をしているが、急性増悪などで治療が必要な患者。現在、病床は120あり、常に60人ほどが入院している。いずれも治療やリハビリと並行して、「自分らしさ(希望)」の再確認と、自宅での生活に移るためのサービスの調整を行う。

1階のエントランスを抜けると、まず目に入るのが大きなカフェスペース。ここは「えんがわホール」と呼ばれ、縁側のように病院外に思いを馳せることができる空間だ。カフェは患者だけでなく一般客も利用可能で、取材時も多くの人で賑わっていた。

1階のカフェスペース /「おうちにかえろう。病院」 提供

その右手奥にあるのがリハビリ室のある「だんだん広場」。患者の⽇常的なリハビリができるスペースだが、時には映画鑑賞やコンサートなどのイベントも開催する。今後は新型コロナの様子を見ながら地域住民も招待できるイベントを開催したいという。1階は、地域の⼈と交流する「まちとの交差点」となっているのだ。

だんだん広場

「患者さんは、入院着を来て病室に入ってしまうと、マインドも“病人”に傾いていってしまいます。元々持っていた『家に帰りたい』という希望を持ち続けていただくにはどうすればいいか。そう考えたときに、“まち”を感じられる空間があれば、自分自身が家に帰ってからやりたいことなど、イメージが湧くんじゃないかと」(安井)

コロナが落ち着けば、館内にある保育施設の子どもたちが1階のだんだん広場で遊ぶ、といった世代間の交流もしていきたいという。
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文=田中友梨 写真=山田大輔

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