人類は木の上から降りる前から節足動物を食してきた。そして地球上の多くの人々は現在も食べている。ただし、ほとんどの先進国では食べられていない。ほとんどの地域で、人々は昆虫を食べることを快く思っていない。気持ち悪いか汚いか、その両方だと考えているからだ。つまり「食糧としての昆虫」という運動は、人々に進んで昆虫を食べたいと思わせるという、きわめて厳しい戦いに直面している。
だがこれは変わるかもしれないとまた別の科学者チームであるコットン大学動物学部准教授のアラップ・クマール・ハザリカと、経済学者でバーナガー・カレッジ経済学部准教授のウンミラン・カリタは主張する。彼らは昆虫を食べることは、近い将来世界中の人々のための高まる食糧需要、特に高タンパク食糧の需要を満たす可能性があるという。これは商業食糧生産者が食用昆虫の飼育を支援することで、いっそう現実的になるとハザリカ教授とカリタ教授は指摘する。
人類用の食糧生産者は、食糧としての昆虫を追求するもう1つのインセンティブを得るかもしれない。それは、気候変動の影響による長期の干ばつや洪水などの厳しい気候事象、世界的フードサプライチェーンの崩壊、そして地政学的紛争など、すべて今私たちが経験しているものだ。さらに、低中所得国の人口が急速に増加していることで、安価で持続可能な栄養素、特にタンパク質の入手手段が求められている。従来の農業や畜産に頼ってこれらのニーズを満たすことは、経済的に実現困難であるだけでなく、環境的にも健全ではない。なぜなら食品産業は積極的に気候危機を促進して自体を悪化させるだけだからだ。
世界中で菜食主義やヴィーガニズムの人気が高まり、植物由来や実験室で育てられた肉へのシフトが進んではいても、こうした解決策はあらゆる国に適用できるものではない。食用昆虫の養殖は、高まる食糧問題の解決策の1つだ。食糧としての昆虫は、食肉のために動物を育てることに比べて、必要な場所が少なく、一般にはるかに少ない資源で養殖できる。昆虫を食べることで、さまざまな栄養的恩恵も受けられるとハザリカ教授とカリタ教授は指摘する。例えばどこにでもいるコオロギはタンパク質が豊富だ。さらに研究者らは、昆虫の飼育は家畜と較べて必要資源が少ないので、グリーンな選択肢として有望であるとも指摘する。
興味深いことに、どちらの論文とも、食糧生産者が「食糧としての昆虫」を受け入れたがらないことが、食糧資源として昆虫が広く採用されることを妨げている唯一の要因だと著者らは主張している。しかし私は、このためらいが文化的なものであることも要因の1つだと考えている。一般に、裕福な人は昆虫を食べないし、先進国で育った人々の多くも食べないだろう。
フライドタランチュラはカンボジアの多くの地域でごちそうだ(Getty Images)
出典:Arnold van Huis and LauraGasco (2023). Insects as feed for livestock production(家畜の生産のための飼料としての昆虫), Science 379(6628):138-139 | doi:10.1126/science.adc9165
Arup Kumar Hazarika and Unmilan Kalita (2023). Human consumption of insects(ヒトによる昆虫の摂取), Science 379(6628):140-141 | doi:10.1126/science.abp8819
(forbes.com 原文)