世界では現在、約7億6800万人が栄養失調状態だ。2015年以降、その数は劇的に増えている。と同時に約20億人が鉄、ビタミンA、亜鉛などの微量栄養素不足に陥っている。いくつかの国が肥満や過体重の人の急増に取り組んでいるが、国民全体の果物、野菜、ナッツの摂取はまだ不足している。その結果、病気の発生率が高まっている。
研究者たちは、こうした公衆衛生問題の大半は農業による環境破壊が原因だと考えている。この環境破壊は土地の劣化と、特にミツバチ、チョウ、ガ、カブトムシ、スズメバチ、鳥、コウモリ、小型哺乳類などの受粉媒介者の生物多様性の損失を引き起こす最大の要因だ。
「また農業による環境破壊は気候変動の大きな要因でもあり、世界の温室効果ガス排出の4分の1から3分の1を占めている。そのため、より栄養価の高い食品をより低い環境負荷で栽培することは21世紀の大きな課題の1つだ」と研究者は研究論文で述べている。
「受粉媒介者の数と多様性を確保することは、世界の食糧システムが直面している栄養面と環境面の課題を解決するための有効な方法の1つだ」とも研究チームは指摘している。
作物のほぼ4分の3は動物による受粉に頼っている。これは、受粉媒介者が風や一部の作物や植物の自家受粉のメカニズムよりもはるかに多くの花粉を運ぶからだ。動物による受粉は受精に理想的な条件を作り出し、種子や果実の生存率を向上させ、ひいては作物の収穫高を飛躍的に高めることができる。
「加えて、動物による受粉は異なる植物間の交配を促進し、つまり同系交配を抑制して遺伝的多様性を高めることができる」と研究者は説明している。