ウサギが、気候変動における「炭鉱のカナリア」になる可能性

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気候変動の悪影響が深刻化するなか、世界の生態系と野生動物がこうした変化にどのように対処するかは、はっきりわかっていない。ホッキョクグマをはじめとする多くの種は、本来の生息地を失い、食料源を断たれて苦境に立たされるだろう。一方、行く末を予測するのが難しい動物もいる。その代表例がウサギだ。

世界には30種以上の野生種のウサギが生息し、さらに家畜品種は305品種にのぼる。ウサギは、家畜として最も歴史が浅い動物のひとつであり、研究によれば、その起源は7世紀フランスの修道院にさかのぼる。この頃、ローマ教皇グレゴリウス1世が、ウサギ肉は四旬節に食べてもよいと定めたことから、修道院でのウサギ養殖がさかんになった。

人類はウサギを食用にし、毛皮を(一種のウールも含めて)衣服に加工し、ウサギの足を幸運のお守りにしてきた。ウサギの体から抽出されるある種のタンパク質には治療効果があり、医療目的で使用される。ウサギには、一部の遺伝病などヒトと共通の遺伝的特徴がみられるため、実験動物として科学研究に頻繁に利用される。

一方、ウサギが人々に重大な損害をもたらし、自然環境を脅威にさらすこともある。ウサギに庭を荒らされて、家庭菜園の野菜を食べられたり、花壇の花をむしられたりした経験がある人は多いだろう。ウサギの食害によって、特定の植物種の絶滅危機にさらされることさえある。

島嶼部では、ウサギの害がとくに深刻だ。例えばモロッコ沖のカナリア諸島では、アナウサギが在来植生への脅威となっている。ある研究によれば、カナリア諸島のウサギ個体数は、気候変動に伴って「大幅に増加する」可能性がある。とくに山岳地帯では影響が大きく、在来生態系の劣化が加速するおそれがある。

この研究によると、カナリア諸島に属するテネリフェ島のウサギは、乾燥した温暖な気候を好む傾向にある。気温が上昇し、標高の高い地帯の積雪が減少すると、こうした場所はウサギにとって住みやすい環境になるだろう。ただしこの地域では、降水量が多いほどウサギの個体数は少ない傾向にあるため、干ばつや暴風雨の発生パターンの変化も重要と考えられる。

一方、降水量の増加によって餌になる植物が繁茂し、ウサギにとってプラスに作用することを示す知見もある。例えば、メキシコのバハ・カリフォルニア半島で過去1万年にわたるウサギの痕跡を調べた研究では、エルニーニョ現象によって降水量が平年の水準を上回った期間に、ウサギの個体数がより多くなる「バハのウサギ大発生」効果が確認された。

気候変動に伴い、世界の降水パターンは変化するだろう。一部の地域では、極端な異常気象によって降水量が増加する一方で、他の地域では、干ばつが長期化すると予測される。
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翻訳=的場知之/ガリレオ

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