パナマ運河は、パナマ国土の68%、約1270万エーカー(約5万1000平方キロメートル)におよぶ熱帯雨林の中にある。運河も熱帯雨林も、どちらも降雨量に依存している。熱帯雨林に十分な雨が降らないと、それは運河に影響をおよぼす。運河当局によると、2019年は70年間で5番目に乾燥度が高く、降水量は平均より20%少なく、貯水池が枯渇したことよってそれがさらに悪化したという。
実際、2015年、2016年と水位が下がり、荷主は船の荷物の量を減らさざるを得なくなった、これはお金がドブに捨てられたようなものだ。
2017年から2019年までパナマの環境大臣を務めたエミリオ・センプリスは、著者との対談で「パナマ運河は、運用が淡水の確保に依存している唯一の大洋間通商路で、地球規模の気候変動の悪影響に対して最も脆弱な存在なのです」と述べている。「パナマ運河流域の水を確保するためには森林を守り、木を増やすこと以上に自然な解決策はありません」
米国は1904年から1914年にかけて、淡水路による近道としてパナマ運河を建設し、船舶が南米大陸の先端を航行しなくても良いようにした。今世紀に入り、パナマ人たちが水路を拡張した。その結果、荷主は通過時間を2日から10時間に短縮することができた。開通以来、1000万隻以上の船がこの運河を利用している。
2021年には5億1700万トンの物資が運河を通過し、パナマ国庫に21億ドル(約2836億円)の貢献をしている。2022年には、この収益額は22億5000万ドル(約3038億円)に達する見込みだ。
パナマ運河の拡張によって海上での滞在時間が短縮された結果、2021年には1600万トンの二酸化炭素が削減されることになる(パナマ運河が開通したことによって迂回航路が不要になったために1914年以降に行われた二酸化炭素削減は6億5000万トンと見積もられている)。一方、熱帯雨林は2016年から2020年の間に1830万トンの二酸化炭素を吸収している。さらに、パナマの熱帯雨林は、パナマのエネルギー産業が年間に排出する以上の二酸化炭素を吸収している。これこそパナマが入念に木を守ってきた理由だ。1947年から2014年の間に、パナマは670万エーカー(約2万7100平方キロメートル)の森林を失ったが、これは国土の一部で、そのほとんどが牧場や農業のために失われた。
こうした貢献にもかかわらず、パナマは熱帯雨林の保護と炭素排出の抑制に対して、直接的な支払いもカーボンクレジットもまだ受け取っていないとセンプリスは述べている。「2015年にパリ協定を採択して以来、パナマは森林伐採を段階的に抑制し、森林を回復するための法的・制度的な取り決めを実施しました。木は私たちの豊かな生物多様性を支え、土壌流出を防ぎ、水循環を調節していることを、私たちは理解しています」