本連載では、現地に1年間滞在し、スタートアップ・エコシステム調査を行う芦澤美智子が、その内部の実態を探りお届けしていきます。
第5回は、千葉県松戸市で中学校の英語教員として働いていた中村柾(なかむら・まさき)さん。2022年4月からスタンフォード大学で学ぶ中村さんに、学内の様子を語ってもらいました。
──スタンフォードに留学した経緯を教えてください。
中学校教員として3年目に入る頃、コロナが発生し、学校機能が麻痺しました。そこで、オンライン個別授業を無料で提供する「オンライン寺子屋」を立ち上げたんです。
当初は教員有志による小さな活動だったのですが、徐々に拡大し、年間で1000件以上の授業を提供しました。その経験から、「テクノロジーを使うことで教育機会が広がる」と感じました。
教育とテクノロジーについて学びたいと考え、海外大学への留学を目指しました。ハーバード、コロンビア、カーネギーメロンなど「テクノロジー×教育」のプログラムがある大学を受験し、いずれも合格しましたが、テクノロジーの最先端であり、また、他の大学院プログラムより少人数のスタンフォード大学に入学しました。
スタンフォードの教育大学院には、
・ラーニングデザイン&テクノロジー(LDT)
・政策、組織、リーダーシップ研究(POLS)
・教育データサイエンス(EDS)
・国際比較教育/国際教育政策分析(ICE/IEPA)
の4プログラムがあり、私はLDTに所属しています。
修了要件はプロダクトのベータ版開発
LDTの目的は「学習科学に基づいた教育サービスをデザインすること」。修了要件としては、論文を書くのではなく、プロダクトのベータバージョンか、プロトタイプを開発することが課せられています。このプログラムの学位は「マスターオブサイエンス」つまり理系の修士号です。──日本の大学との違いは?
必修科目は最低限で、他学部の授業を自由度高く履修することも可能です。日本の大学では一般的に、文献をたくさん読み理論を学ぶことが中心だと思いますが、スタンフォードでは、学んだことをどう実践していくかに重きが置かれていると感じています。
教授は、一度教員として学校で働いた後に、博士課程に入学した人が多く、授業でも豊富な現場経験を踏まえた話をしてくれます。
また、「教育とビジネス」に関連する授業がいくつかあります。例えば、経営大学院との共同授業では、教育分野の社会課題を解決する方法、つまり起業について学びます。また、テクノロジーフォーラーナーズという授業では、すでに存在するエドテックのプロダクトを選び、製品の特徴を捉えたうえで、その裏にあるエビデンスやリサーチを推測し、改善点を記載したレポートを作成します。
さらに面白いのは、レポートをレビューサイトに投稿したり、運営会社に送ってインターンシップにつなげていきます。私は、VRで言語を学ぶIMMERSEという会社をリサーチしています。