スタンフォード大学で起業家が育つ理由 論文が修了要件ではない

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起業家精神に「浸かる」

──LDTプログラムの学生の雰囲気はどうですか?

起業家精神をもった学生が集まっています。約半数は現役のCEOや団体を立ち上げた経験がある人たちで、ゲストとしても起業家が多く来ます。先日は、教育関連のカンファレンスにテンセントの共同創業者が来ていました。

授業外でも、学内で頻繁に行われているイベントに参加すればCEOに会える機会がたくさんあります。スタートアップ起業家たちの苦労話や成功話があちこちから聞こえてきて、起業家精神を「教わる」というよりも「浸る」感じですね。

 中村柾さん

 中村柾さん


──中村さん自身も「オンライン寺子屋」という団体の立ち上げ経験がありますよね。

高校生向けの格安留学プログラム「ワールド寺子屋」を企画し、昨年8月に150万円のクラウドファンディングを達成しました。トビタテ留学JAPANなど各種奨学金制度が増えてきた一方、その選考から漏れてしまう人が多くいるのも事実です。

また、4年間の実務経験を通じて「留学プログラムに参加するハードルが高く、もとから申し込まない」生徒が多くいると感じました。

このハードルを下げるために、できるだけ簡単な選考プロセスで、誰にでもチャンスがある留学プログラムを準備しています。スタンフォード近隣のパロアルト市の高校と提携し、現地学校で1週間学ぶプログラムを準備しており、今はその調整で忙しくしています。

──すごいですね。修了後はどんなことをする予定ですか?

日本の教育がさらによくなるためには何が必要かを考えています。国の教育環境を評価する時の指標は多くありますが、特に気にしているのは「教育格差」「不登校の生徒数」「教育と経済成長」。

日本は世界と比べて「格差が少ない」と言われます。ですが、「不登校の生徒数」は多く、経済成長は止まってる状況です。一方、アメリカは「GDPは伸びているが、格差は大きい」という現状で、別の問題を抱えています。

日本の教育を変革する際に、ビジネスサイドからか、文科省からか、学校の現場からか、どうアプローチしていくのがベストなのかを考えています。

取材後記

「スタンフォード入学前にクラファンを実施し、新プロジェクトを準備している元中学教師の人がいる」

中村さんの話はあちこちから聞いていました。お会いしてみると、全身からエネルギーを発する起業家精神を感じさせる方でした。

シリコンバレーには、教育とテクノロジーをかけ合わせる「エドテック」の事例が数多くあります。スタンフォードにも、未来の教育を創る、学部横断的な起業支援システムが動いているのがわかりました。

※この記事は、ジャーナリストの尾川真一(フルブライト奨学生)とともに取材しました。


中村柾(なかむら・まさき)◎スタンフォード教育大学院修士課程在籍。大学時代、米国、スワジランド、インド、ホンジェラスの学校で教育実習を行った。2022年3月まで4年間千葉県松戸市で公立中学校の英語科教員として勤務。その後、ハーバード、スタンフォード、コロンビア大学院などに合格。フルブライト奨学生。コロナ禍で始めた全国の生徒に無料オンライン授業を行う「オンライン寺子屋」は2021年ICT夢コンテスト総務大臣賞受賞。

文=芦澤美智子、尾川真一 編集=露原直人

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