そんな会社の評判が、2014年にナデラ氏が社長の座に就いてから一変した。商品群にも幅が出て、ビジネスは好調で株価も上がっている。それ以外に著しく良くなっているのが、社員の満足度だ。
社長就任後、ナデラ氏はマイクロソフトの役員達に、マーシャル・ローゼンバーグの「人と人との関係にいのちを吹き込む法」という本を読むように言ったそうだ。この本には、競争や非難ではなく、思いやりと理解を用いて効果的にコミュニケーションやコラボレーションを行う方法が書かれている。
その背景には、マイクロソフトを「知ったかぶり」のカルチャーから「謙虚」なカルチャーに変革するという意図があったそうだ。
もちろんリーダーには自信に満ちた態度が必要であるし、チームを引っ張る胆力も不可欠だと思う。しかしそこに謙虚さがなくなってしまうと危うい。30代はじめの僕はまさに危ういリーダーだった。
僕の振る舞いはあまりに一方的で攻撃的であり、そこにはディレクションを込めたつもりだったが、チームの気持ちを理解したコミュニケーションが存在していなかった。改めて振り返ると、あの時の失敗の根源はそこにあったと思う。
3. 自分より優れた人を迎え入れることができるか
30代の頃から僕は、真のリーダーシップとは何かを意識するようになった。着任初日の失敗を反省したのはもちろんだが、それだけではなく、新しく求められるようになった役割の難しさを感じていたからだ。自分が手を動かすことなく、指示によってチーム全体のレベルを押し上げる難しさは今でも感じ続けている。その答えになるかもしれないと思うのが、「自分より優れた人をチームに迎え入れられるかどうか」という観点だ。
いわゆるリーダーと呼ばれる人たち、特に人を雇う立場にある人は、無意識に似たような人材でチームを固めてしまうことに気をつけなければならない。誰しも、自分より優れた人を雇えば自分の地位が脅かされるかもしれないという恐怖心はあるだろう。
そこを乗り越えて、自分より優れた人をチームの一員にできるかどうかが、真のリーダーになれるかどうかの鍵を握る。
僕自身もAKQAに行った当初は、無意識に自分と似たような人材でチームを固めてしまっていた。しかしそこで新たに求められるようになったチャレンジを達成するには、自分と同じような人の集まりではうまくいかないことに気づいた。
そんな僕に大きな影響を与えてくれたのは、当時同じ部署にいた採用担当の同僚だった。今思うと、彼はおそらく意識的に「今、この部署にいない人」を連れてきてくれていたのだろう。