1. インスピレーションを与えているか
20代の大半を、僕はR/GAで過ごした。R/GAは映像やウェブサイトの制作に優れたクリエイティブ・エージェンシーであり、創設者のボブ・グリーンバーグは業界でも有名人だった。僕がR/GAに入った理由はシンプルで、誘ってくれた人がとても魅力的だったからだ。話しているだけでこちらをワクワクさせてくれる人で、その人の元で働けばいろいろなことを吸収できるだろうと思った。わずか20分ほどの面接でやる気が出た自分に驚いたことを覚えている。
残念ながら僕を誘ってくれたその人は、僕が入社してすぐにR/GAを去ってしまった。そのため結果的に僕は「指導を受ける側」としてリーダーに恵まれない20代であった。
しかし冒頭で紹介した失敗体験の後、何が足りなかったのかを自分なりに考えた時、R/GAで受けた面接の時の気持ちを思い出した。よくない点を指摘し、メンバーを指導するのは上司としてもちろん必要だ。だがそれだけでは「上司」や「ボス」にすぎない。
それに対してリーダーは、相手をワクワクさせ、やる気を出させて、できないと思っていたことも可能にする。それは「インスピレーションを与えることだ」と、この失敗を経てようやく分かった気がした。この人が与えてくれたインスピレーションは強く印象に残っており、僕にとって今でもあるべきリーダー像の土台となっている。
30代の筆者(左から4番目)
2. チームの気持ちを理解しているか
「もしあなたが道を渡ろうとしている時に、赤ちゃんが倒れているのを見たらどうしますか?」1992年、現マイクロソフト社の最高責任者サティア・ナデラ氏は、入社面接で一番最後にこう聞かれたそうだ。それに対しナデラ氏は「一番近い電話ボックスまで走って、救急車を呼ぶ」と答えた。すると面接官は突然立ち上がり、ナデラ氏に面接終了を告げたそうだ。ナデラ氏は唖然とした。
「すると面接官は、『あなたは共感力を養う必要がある。子供が泣いていたら、抱き上げて抱きしめるんです』と言ったんです。それが重要な資質だということが、いつも心に残っています」
この面接でのやりとりが、後にナデラ氏のリーダーシップのあり方に大きな影響を与えることになる。
ナデラ氏はマイクロソフトの三代目の社長だ。創設者のビル・ゲイツ氏、二代目のスティーブ・バルマー氏が合計40年近く社長を務めた後に就任した。いうまでもないが、マイクロソフトはナデラ氏が社長になる前にも大成功を収めていた。