ビジネス

2023.01.30

数字を売りにしない。「いい会社」に投資する鎌倉投信の原点

鎌田:経済的リターンだけを求めると、この方針は採れないと思います。

売却前提であれば、株価が上がったら売却し、他の安い株に入れ替えていくことで、パフォーマンスを改善させなければいけません。ただ、僕らはあえてそれをやりません。収益性は緩やかになるものの、経済的リターンだけではなく社会的リターン、個人の学びなども得られます。

鎌倉投信では投資を資産形成や社会形成、豊かな心の形成の掛け算として捉えているとお客様に伝えていて、リターンだけではないという世界観になります。

中道:日本ではまだ珍しい手法になりますか。

鎌田:珍しいと思います。ただ、自分たちのやり方は意味があると確信はしています。

鎌倉投信の立ち上げ1年後に東日本大震災が起こり、当時500人ほどのお客様を抱えるなかで、日経平均が20%ほど暴落もしました。20%は100兆円ほどで、それほどの大金が一気に吹っ飛ぶほど株式市場はパニックに陥りました。

僕は鎌倉投信のお客様も不安から解約が増加すると予想しましたが、実際の投資行動は真逆で、震災直後に当時の最大の入金件数を記録しました。加えて「こういうときだからこそ、いい会社を応援したい」「復興支援に直接関わることはできないけれど、いい会社の力になれるんであれば少額だけでも投資します」といった手紙やメールもたくさん受け取りました。

僕らとしては、このことを投資先にも伝えなければいけないと思い、当時十数社あった投資先の社長に「大変な状況ですが、鎌倉投信のお客様みんなが応援していますから頑張ってください」というメッセージを送りました。すると、「頑張りますので、皆様によろしくお伝えてください」というメッセージがさらに届くと。

中道:泣ける話ですね。

鎌田:信頼はそうやって醸成されていくもので、お客様から心こそが貨幣の本質だと教えてもらえたといえます。僕らはそういった、想いとも祈りともいえるようなおカネを預かっている立場で、必ず世の中に役に立ててリターンとして還元しなければいけないと、決心する出来事でした。

文=小谷紘友 編集=鈴木奈央

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