その一つが、まず、食材に付加価値をつけることだ。
「漁師の人たちに、日頃100円、200円で売っている魚にも実は大きな価値があることを認識させることがまず必要です。しかし、そのためには、船上での放血神経締めなど、魚の品質を上げることが必須。そうすることで、レストランが高く買い上げることができ、真に、魚の価値が上がっていきます。
同時に、海が荒れて魚が入らないときには、郷土料理や保存食の知恵をメニューに生かしていくことも大切だと考えています。それは野菜にもいえることで、価値のある旬は短いため、それ以外の時期には、先人の知恵を借りて料理に落とし込むことも自分の役目です。レストランからそうした料理を発信することで、魚や野菜の価値や対価が高まるはずです」
息子に「一緒にやりたい」と思われる仕事を
魚が獲れなくなることで、牡蛎の養殖を初める漁師も増えている。実は、牡蠣の養殖は餌いらずなうえ、海水を浄化するという利点がある。しかし、餌となる良質なプランクトンがなくては育たず、プランクトンを増やすには、海だけでなく、山から川から町までが良くならないとしょうがない。だから漁師達は山を見るようになっている。
島原は海と山がすごく近いにも関わらず、地域の資源が林業、農業、漁業と分断されていた。島原は温暖な気候ゆえに、戦後、JAの組織力を持ってして、一年中農業ができる一大農産地として成功した。しかし、農薬や除草剤を散布すれば、雨水を通して海に流れていく。木がなくなれば、川の水に影響が出る。農業、林業、漁業の協業こそが、里浜ガストロノミーの目指すところでもあるのだ。
「美味しい食材を守っていくためには、地域が一つになって考えることが大切だと訴えることが、我々シェフがやらなければいけないことだと思うのです」と、自分の立ち位置を見つめ直している。
地産地消という言葉も考え直さなければいけないことの一つだ。島原産の魚といっても、島原で揚がったからそう呼ばれるだけで、魚は、福岡、佐賀、長崎、熊本の4県にまたがる有明海を自由に泳ぎ回っている。4県が協同して取り組んでいかなければ、ルール作りや課題解決は難しい。
「例えば、4県で漁の網の目の大きさを決め、小さな魚はリリースするようにするとか、買い上げる対価を共通にするとか。4県の連携はそう簡単なことではないですが、できないことではないはず。そうして有明海を守っていかなければ、豊かな自然は残せません。そのために、4県のシェフたちが集まって声を上げていくことも必要でしょう。現時点ではまだつながりが強くはないけれど、これからもっと協力し合い、自治体とも関わっていきたいと思います」
最後に今後の夢は? と聞くと、「次世代にバトンを繋ぐことが一番大切」と言う。この地域にあるものを大切に続けながら、世間に認めてもらい、次世代がやりたいと思い、見合った対価を生み出す仕事をしていくこと。
「息子(少学6年生)と店をやるのが夢ですが、決して強制はしたくない。それより、一緒にやりたいと言ってもらえるような魅力的な存在であり続けたいです」