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2023.01.15 11:00

魚と野菜だけ。島原のpescecoが標榜する里浜ガストロノミーとは

「pesceco(ペシコ)」オーナーシェフの井上稔浩氏


里浜ガストロノミーという言葉が浮かんだのも、この移転の時期だった。暇だった移転前に、自分たちは何なのかと考えながら、浜辺を歩きまわり、半年かけて思いついた言葉だという。
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「今まである既存のジャンルではなく、自分がこうありたいなと思った言葉でもあるのです。海と山がすごく近い島原は、里山ではなく里浜。料理を中心として、様々な文化的要素で構成されるガストロノミーという言葉が好きでその二つを結びつけました。島原にはまだそういうカルチャーがなく、レストランを通して発信できたらいいな、と思って」

その後、徐々に評判が評判をよび、県外や東京からも来店するようになり、軌道に乗っていった。

料理のベースに地元の知恵


6席のカウンターは劇場だ。井上氏はその場で玉ねぎを刻むところから始める。割烹よりも割烹らしいほどに、作り立てということを重視している。その根底には、素材との距離の近さがある。釣りたて、採れたての素材なのだから、できたてを提供しなければ申し訳ない。それが、デスティネーションレストランの義務であり、本来の姿であると考えている。
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1品ずつ、工夫に満ちた魚介の使い方に舌鼓を打ち、7品ほどが供されたあとのメインディッシュは、それまで使った魚介の骨やアラを全部一緒にして煮出した魚のスープ。その滋味たるや、筆舌に尽くしがたい。まるでミュージカルが終わり、後ろの幕が上がったらオーケストラがいた、そんな粋なサプライズにも思える。

一方で、料理のベースには、郷土料理や農家のおばあちゃんに聞いた食べ方などもしっかりと根を張っている。どこかほっとできる美味しさを感じられるのも、そのあたりに理由があるのだろう。

「魚をレアで出すにしても、油分と酸味を工夫したり。素材寄りの味を楽しんでほしいけれど、素材そのものではないのです」と、井上氏はこだわりを語る。


その朝は早い。まず一番に畑に行く。そこは12年間無肥料、無堆肥、水すらやらず、畑も耕やさない、完全な自然農法で種子栽培をしている。その生命力の強い、濃い味わいは、魚と合わせても決して負けず、むしろ主役になるときもあるほどだ。

魚は父親の魚屋から6割、近隣の漁師から2割、残りは対岸の天草の漁師から仕入れている。本当に上質な食材を料理の力でまとめ上げ、発信していくのが自分の役目だと心得ている。

オープン当初は地元では理解されなかったレストランも、県外から、全国から、世界からゲストがくるようになって、地元の人たちの認識も変化した。

「8年かけてようやく発言権ができたというか、自分から発信していきやすくなりました。だからこそ、これからやっていかなければならないこと、できることがあるはずです」
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文=小松宏子

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