世界に開かれた宿へ 「里山十帖」が料理十か条を掲げる理由

里山十帖の料理

新潟県魚沼地方にある料理旅館「里山十帖」は、料理十か条を掲げている。

一、料理を通じて、体験、発見、感動を提供する。
二、二十四節気、七十二候。日本の暦に逆らわない料理を作る。
三、新潟の風土、文化、歴史を学び、料理に表現する。
四、古来伝承の発酵・保存技術を学び、活かし、料理に取り入れる。
五、食材はできるだけ近くから。食材に旅をさせない。
六、山菜、伝統野菜、有機栽培の野菜など、生命力の強い食材を使う。
七、動物を無用に苦しめず、命に感謝していただく。
八、野菜は皮や根、茎まで、魚や肉は骨まで、余すところなく使い切る。
九、無添加、天然醸造の調味料を使い、化学調味料は一切使用しない。
十、美味しいこと、美しいこと、健康で幸せに生きる料理であること。

考案したのは、シェフを務める桑木野恵子氏。読むだけで体が綺麗になる料理が供されるとわかるが、この十条を敢えてホームページにのせるまでには、相当の苦悩があったのだという。

里山十帖のシェフ桑木野恵子氏

桑木野氏といえば、2022年度のゴ・エ・ミヨ誌においてテロワール賞を受賞した注目の女性料理人。ところが、実は専門的な料理の修業はしていない。エステティシャンとして働いたのち、オーストラリアへ渡り、ヨガをやりながらビーガンの食生活を送ってきた。

日本と行き来しながら7年を過ごし、帰国後ヨガを教えながら、ビーガンレストランで働いていたが、そのレストランがクローズするタイミングで、たまたま里山十帖がオープンする記事を読み、その構想に感動。「何かしら自分の経験が役に立つのでは?」と応募したという。



2014年1月、プレオープンから現地に入り、料理長であった北崎裕氏の下で働き始めた。「何もかもが学ぶことばかりだった」と振り返る。ところが、2020年にオープンした松本十帖のために北崎氏が異動すると、料理長に命じられた。魚沼に来て6年、桑木野氏とっては青天の霹靂だった。

その後、お客様からは意見、苦情、叱責の連続。円熟の料理人である北崎氏と比べればしょうがないことと知りつつ、自分の実力のなさ、不甲斐なさ、核となるものがないことにとことん落ち込み、自分の料理を一から見つめようとして、料理十か条の原案を書き上げた。

それを、オーナーの岩佐十良氏に見せて相談した後、加筆修正を加えて上記が完成。「もっと全面的に押し出しなさいと」ホームページにも記載することになったのだという。
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文=小松宏子

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